北京
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中国で7番目の大きさを数えるクブチ砂漠では、2016年以降、現地とゆかりのある民間会社「億利(Elion)」社が主体となり、生態修復と共に、太陽光発電産業を中核にした発電、農業、畜産業、貧困扶助、産業観光を一体としたクブチ発の複合型砂漠対策を打ち出しています。
今日の「CRIインタビュー」は、記者が内蒙古杭錦旗内にあるクブチ砂漠の中腹部に設置された、中国初の砂漠太陽光発電所でのマイクリポートです。
太陽光発電ってどんな音がしているのか。構内になぜ羊やヤギがいるのか、砂漠で作物をどう栽培するのか、詳しくは番組をお聞きください。
クブチ砂漠に広がる「いらかの波」
◆発電所建設の第一歩は生態修復から
年間日照時間が3,180時間以上、中でも年平均発電時間は1,750時間以上――豊富な太陽光資源に恵まれている点が、クブチ砂漠での太陽光&太陽熱発電展開の土台です。
オルドス市杭錦旗から約120キロ離れたクブチ砂漠の中腹部に、「億利(Elion)」社が国有大手電力会社と提携する発電プロジェクトがあります。用地として使われる予定の砂漠の面積は約10万ムー(約67平方キロメートル)あり、2021年5月現在、その中の7万ムー(約47平方キロメートル)で、すでに生態修復工事を終えたそうです。
発電所と道路を挟んだところには高台があります。登れば、「いらかの波」を髣髴とさせる風景が広がっていました。遠方に聳え立つウラ山連峰を背に、長さ10キロ、幅3キロもあるソーラーパネルの大海原です。
稼働開始が2016年で、太陽光(710MW)と太陽熱(200MW)発電の両方を合わせれば、総出力1ギガワットにも達します。この年末に完工し、フル稼働ができるそうです。
発電所と隣接して、空を突き刺すように化学工場の煙突が見えます。発電所の屈玉文所長(53歳)によりますと、石炭化学工業団地の近くに発電所を設置したのは、近場の電力需要にも対応できるようにしたためです。また、工業団地の中には、太陽光発電の電力を活用し、水素を製造・貯蔵するインフラも整備されているそうです。
ところで、流動砂丘が多く、草も木も生えない砂漠の中腹部に発電所を作るまでには、数十年にわたる準備期間が必要でした。
杭錦旗内の砂漠横断道路、総延長は900キロ超に
発電所に来るまでの道中は、砂漠横断道路がきれいに整備されていましたが、その道路ができる前には、まず整備された道路が砂に埋もれないようにする砂防工事が不可欠でした。今も道路の両側には、人の手で整備した四角い「草方格」と呼ばれる、広大な砂防工事の跡が残っています。
クブチ砂漠・砂漠横断道路両側の砂防工事「草方格」
杭錦旗内の国営製塩工場が前身の「億利(Elion)」社は、1988年、自社製の塩を遠回りせずに市場に送り出すために、旗内で初めて砂漠横断道路の整備に乗り出しました。砂防工事と砂漠緑化など、生態修復に地道に取り組み続けてきたことが砂漠での発電所建設を可能にしたと言えます。
次は、敷地内の地盤整備です。移動砂丘のままだと、その上は普通の車では走れません。人間が歩く時は雪の上を歩くがごとく、足がすぐに砂の中に埋まってしまい、早く移動できません。屈所長の話では、ソーラーパネルを設置する前には、将来、構内での作物栽培を視野に、まずは10センチほどの赤い土をかぶせました。且つ、道路の予定地には、車の走行と人が歩行できるようにするため、砂利を被覆して簡易道路として固めました。
発電所の中の道路
小規模ならまだしも、対象となる用地は10万ムー(約67平方キロメートル)もの広さを考えると、度肝を抜かれる話です。今、広大な発電所の中はブロックごとに道路が整備されており、アスファルトの舗装はしていないものの、固さは普通の道路と同じで、人間が違和感なく歩くことができる上、大型トラックも普通に走行しています。整然とした「いらかの波」が完成するまでには、見えないところで汗みどろの奮闘がありました。
■クブチ砂漠初の太陽光発電プロジェクト、循環型産業を目指す
屈玉文所長の話では、ここは億利社が手掛けた初めての大型砂漠太陽光発電事業です。そのため、様々な模索が行われているそうです。
「単結晶シリコンは地面に反射した太陽光でもう一度発電できる」と屈玉文所長
「パネルは多結晶から単結晶まで、設置方法は地上設置型から支柱を立てて、その下で農業ができる営農型まであります。架台には、ひまわりのように太陽光を追いかけ続ける追尾式と固定式があります」
様々なタイプ、方式のソーラーパネルを導入したわけは、今後、砂漠で新規プロジェクトを立ち上げる時に備え、最も効果的な方式を模索したいからだと言います。
追尾式ソーラーパネル
紹介によれば、据え付けたソーラーパネルは1枚につき、広さが2平方メートル。数にしてゆうに190万枚以上。1枚あたりの出力は古いものでは1枚につき300ワット、最新式では450ワットに改善されています。設置する際には3枚1組、広さにして6平米を一つの単元とします。稼働時間6時間で計算すれば、1日の発電量は5.4キロワットアワーに達します。なお、追尾式のほうが固定式よりは12~15%高いそうです。
ソーラーパネルの下にはジャガイモの小さな芽が顔を出し始めている(5月25日撮影)
発電所の中を散策すると、まるで大型農場に身を置いているようです。ただし、栽培されているのは穀物や野菜ではなく、見渡す限り、青色のソーラーパネルです。パネルの下の畑には小さな芽が吹き出ていました。栽培されているのは薬用にもなる甘草のほか、ウマゴヤシなどの牧草、カボチャ、ジャガイモなどの食材もあります。発電所弁公室のスタッフ・李飛さんによりますと、太陽光パネル下では風速を1.5ミリ/秒和らげ、土壌の年間蒸発量を800㎜低減することができます。また、作物の灌漑にはマイクロドリップ(点滴)灌漑を導入しているため、普通の灌漑方法よりは9割以上も節水ができ、活着率も3割以上高くなります。さらに、甘草などの作物は、空気中の窒素を肥料に変える窒素固定の効果があり、長期の取り組みにより、土壌肥沃度を高める効果が期待されています。
植物だけでなく、発電所内では鶏、アヒル、羊やヤギも飼養されています。家畜は、作物の発芽期や若葉の成長期を除いて、基本的に放し飼いにしているそうです。
発電所内で飼育されるカシミヤヤギ
「スタッフが退勤した後、彼らは発電所を自分の庭先のように闊歩しています」と、微笑みながら屈所長は話しました。
家畜の中には、カシミヤがとれる「カシミヤヤギ」もいて、高い経済的効果も期待されていますが、そればかりでなく、「実用的なお勤めも期待されている」と屈所長は話してくれました。
「地上に設置されたソーラーパネルだと、草が一定の高さまで伸びると、発電の変換効率が低くなります。そういう余分な草を家畜たちに食べてほしいのです」
とことん合理性と循環性を追求している姿勢に深い感銘を受けます。この発電プロジェクトの創意工夫はこういうところに止まることなく、地域再生との強い連携にも特色が見出せます。
多年草の甘草は今年で3年目となる
まず、発電所の用地はもともとは、地元の農牧民たちが請け負っていた砂地です。事業者側が借地として使用料を払い、その代金が農牧民たちの安定した所得になっています。
次に、工事中、貧困扶助プロジェクトとして、800世帯余りの農家を対象に1000人分あまりの雇用を創出し、一人当たり1万元の所得増をもたらしました。安定運営に入った今も、800世帯中、所得がとりわけ低い「貧困家庭」57世帯に対する支援を続けています。具体的には、太陽光パネルの洗浄業務の依頼です。1世帯当たり4~8メガワット分のパネルを請け負わせ、1メガワットにつき1500元から2000元の清掃代金を支払っています。洗浄は年に4回行われており、これにより、1世帯あたりざっくり3.2万元の収入が得られるということです。
◆クブチから他の砂漠への広がりで排出削減への貢献も期待
ところで、広大な発電所ではありますが、管理者はわずか23人。案内してくれたマスターコントロール室には、壁一面の大画面に、20台ほどのパソコンが設置されており、自社スタッフは2名体制で対応しているそうです。190万枚あまりのパネルは1枚ずつコンピューターシステムでリアルタイムでチェックでき、要注意事態発生時はアラームが鳴り、すぐに故障のパネルを特定して駆けつけ、保守を始めることができるそうです。
マスターコントロール室の様子
記者が取材に行く少し前に、強風で追尾式のパネルに損傷が起きたそうですが、屈所長は自然災害に備えて、保険には加入していると紹介してくれました。
ここはこの年末までに完工する予定。フル稼働となれば、毎年44万トンの標準石炭、116.1万トンのCO2、3.9万トンのSO2、約1.9万トンのNOX、34.7万トンの粉じんの排出を抑えることができると見積もられています。
立案の段階から発電と生態環境の修復、地域住民の所得増などの総合的効果を目指してきたこの発電所は、稼働開始から約5年が経過し、発電量が年を追うごとに向上し、去年までに12.5億キロワットアワーに達し、これまでの発電量の合計はすでに30億キロワットアワーに上りました。
「ここはもともとは草木も生えなかった砂漠でしたが、今は緑が増え、野兎、キジ、狐、アナグマなどの野生動物もよく見かけるようになりました」
屈玉文所長(右)、李飛担当(左)
屈所長は微笑みながらこう話してくれました。8年にわたった取り組みにより、発電量の向上だけでなく、生態系の改善でも大きな効果が確認できたといいます。
クブチ砂漠発のこの複合型の産業モデルはコピー可能なモデルとされ、今後は内蒙古のウランプハ(烏蘭布和)砂漠、ムウス(毛烏素)砂漠、甘粛省武威市のテンゲル(騰格里)砂漠などでもプロジェクトが整備される動きが進んでいます。
クブチ砂漠で起きている出来事は本当の一例に過ぎません。中国では「3060目標」として知られる、2030年までの温室効果ガス排出量のピークアウト、そして、2060年までに排出量を実質ゼロとする「カーボンニュートラル」の実現に向けて、民間企業でも着実な取組みを始めていると言えます。
(取材&記事:王小燕 写真:王小燕、桑徳格)
【リンク】
クブチ砂漠を行く③洪水対策と生態修復の両立で成果あげる=クブチ砂漠
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