洪水対策と生態修復の両立で成果あげる＝クブチ砂漠

黄河の南岸に沿って広がるクブチ砂漠では、近年、黄河の洪水対策と砂漠の生態修復の両立をはかる試みが始まり、着実に成果を上げています。

クブチ砂漠に引き入れられた黄河の水

　内蒙古自治区オルドス市に位置する杭錦（ハンギン）旗には、黄河が約249キロにわたって旗内を流れ、その中の約200キロとほぼ平行するように、クブチ砂漠が横たわっています。その広さは全旗面積の約4割も占めています。

　冬に凍結する黄河は、春には雪解けとともに上流から流れ込む流氷の被害、夏には集中的な雨による洪水予防が毎年の重点課題です。中でも、120日間も続く冬の洪水対策期間では、約14.4億立方メートル相当の水が杭錦旗内にとどまることになります。

　これらの水を砂漠の生態修復に生かせるよう、杭錦旗は2013年に専門家チームを結成し、1年にわたった実地探査を行いました。現地では、砂漠から黄河までの最短直線距離はわずか3キロ。黄河の河道は砂漠よりも高い海抜にあり、高低差を利用して引水工事が2014年に試行され、効果が検証された後、翌2015年から本格的な取り組みが始まりました。

黄河は北（写真の上方向）へ3キロ先にある

　杭錦旗政府筋によりますと、黄河の水利用には厳格な管理体制があり、現地政府が管理機関に事前に申請を出し、当局が毎年、当該年の天候や水量などに応じて計画的に水量を配分しています。2015年以降、当該プロジェクトにより、合計して約3.1億立方メートルの増水期の黄河の水がクブチ砂漠に引き入れられました。これにより、約20平方キロメートルの水面と約60平方キロメートルの湿地が出来上がりました。水のお陰で、動植物が自然に回復して、現在、対策エリアでは植物20種類余り、鳥類10種類以上が観測されています。生態系の改善で草地の面積が増えたため、付近の農牧民は家畜の飼育頭数の拡大が可能になりました。さらに、水面を生かしたカニなどの養殖や、観光客の増加に伴って民宿やレストラン経営など砂漠ツーリズムも盛んになり、以前に比べて所得が増え、生活が著しく改善されました。

各地からの観光客の姿も

悠々と牧草を食べている牛たち

　中国には、1950年代に黄河の水を灌漑用に引き入れ、寧夏ホイ族自治区や内蒙古自治区で穀倉地帯を作り出した実績があります。その一方で、不適切な灌漑方式と排水システムの不備により、一部地区では土壌の劣化現象が起きています。杭錦旗政府筋によりますと、砂漠対策としての黄河の水利用では、引き入れることだけではなく、水が黄河に還流するための水路網も同時に整備され、砂漠地帯に適した水循環体系の形成に力点が置かれてきました。

クブチ砂漠にできた水面

　今後の計画は、砂漠のさらに奥地にある湖「七星湖」エリアの水路と結びつけ、黄河の洪水対策用遊水地とつないだ水循環システムを整備し、クブチ砂漠で300平方キロメートルの湿地の形成を目指します。こうした取り組みにより、クブチ砂漠の北部で幅約5キロの緑の障壁を作り、砂が黄河に流れ込むのを食い止める効果が期待されるということです。

■写真で見る杭錦旗の「引黄入沙」（増水期の黄河の水を砂漠に引き入れる）プロジェクト

（記事：王小燕、写真：王小燕、桑徳格）