伝統文化の魅力をもっとたくさんの人に~琵琶演奏家方錦龍さんに聞く

2021-03-09 18:37  CRI

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ご案内:王小燕&斉鵬 
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2021年の年越し番組「央視網絡春晩」に出演中の方錦龍さん、特製エレキ琵琶の初お披露目となる

   この春節、中国中央テレビ(CCTV)の年越し番組「央視網絡春晩」には、鶴髪童顔の琵琶奏者の出場がありました。
 彼の名は方錦龍さん(57歳)。琵琶奏者としての活動歴はもう40年以上に上ります。ネット上の超人気歌手のヒット曲の伴奏に、方さんは特製のエレキ琵琶を携えて登場。龍と唐草模様が施されたその琵琶は胴体が透き通っていて、青い電光を放っていました。

 そんな方さんにはもう一つの顔があります。2019年10月末の日本。正倉院宝物の「螺鈿紫檀五弦琵琶」が陳列された東京国立博物館で、中日両国の演奏家が共演する「国宝コンサート」が開かれました。出演者の一人として、方さんは自身が復元した現代五絃琵琶を使って演奏に参加しました。

 1963年、安徽省安慶の生まれ。安慶は伝統演劇「黄梅劇」ゆかりの地。方さんの父親は地元の劇団で弦楽器を担当。6歳から琵琶の稽古を始め、40年あまりの琵琶人生の中で50か国を歴訪。山東、広州、北京などを拠点に、伝統音楽の世界では不動の地位を手に入れた方さん。最近は人気バーチャル歌手との共演やSNSでの積極的な配信、ワイドショー番組の出演など、若者の文化に積極的に近づこうとしています。常に新しいことにチャレンジするその心意気に迫ってみました。

◆300種類の楽器が演奏できる

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琵琶奏者・方錦龍さん

  「中国には、大俗はすなわち大雅、雅俗共賞という言葉があります。つまり、低俗と優雅は紙一重で、真の美しさは分かりやすく、どんな人でも楽しめるものだという意味です」

 何となく雲の上の存在だという民族楽器の演奏家のイメージを打ち破り、方さんはどんな時も微笑みを絶えず、どんな人とも気楽に接し、ユーモアたっぷりの話し方をしています。

 琵琶奏者ではありながら、彼が演奏できる楽器は8000年前の骨笛から現代のエレキギターまで、約300種類にも上ります。また、自宅には世界各国、各民族の伝統楽器約2000点も収集されています。

 方さんの民族楽器の普及活動における定番の一つは、琵琶一面のみで聞かせてくれる世界音楽の旅です。彼の爪弾きは、世界各地の楽器の音色を再現します。北京の伝統芸能に使われる三弦から、インドのシタールや打楽器のタブラー、スペインのカスタネット、欧米のクラシックギターにフォークソングの伴奏に使われるアコースティックギター、そして、現代のエレキギターなどと幅が極めて広い。

 「琵琶はその誕生の時から、様々な文化が混じっていたため、世界各国の音楽を比較的自在に表現できるポテンシャルがあります」

そんな方さんの目には、琵琶は民族音楽を奏でるただの伝統楽器だけでなく、東西の間を行き来しながらも融合して新しいものが生まれるプロセスの生き証人としても映ります。

◆五絃琵琶の復元からエレキ琵琶の試作まで

 ところで、中国や日本でいま弾かれている琵琶は、普通は4弦です。1985年、22歳の方さんが日本で開かれたシルクロードがテーマの演奏企画に招かれ、北海道から沖縄まで日本各地をツアーしました。その時に、若き方さんの心を揺さぶった出来事がありました。日本のテレビで、正倉院宝物の中に、螺钿紫檀五弦琵琶があることを初めて知りました。

 「当時の自分は琵琶のことなら、何でも知っていると高をくくっていました。しかし、かつて中国で五絃の琵琶が弾かれていて、日本にまだ保存されているものの、中国ではもうすっかり姿が消えてしまっていることを知り、ショックを受けました」

 帰国後、「なんとか五絃琵琶の音色を復元したい」という思いがつのり、方さんは敦煌の壁画をはじめ、歴史について猛烈に勉強を始めました。大勢の人を訪ねて、ついに江蘇省で、五絃琵琶の試作を一緒にチャレンジしたいという琵琶職人に出会えました。

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琵琶奏者・方錦龍さん

 ところが、弦が1本増えれば胴体もそれだけ大きくなり、弦と弦の間隔も狭くなり、それだけ演奏が難しくなります。手さぐりの試作が続き、1989年にようやく五絃琵琶の形がほぼ固まりました。あれから30年の月日が流れました。この間、5回も手を加えて改善し、その都度バージョンアップさせてきました。と同時に、方さんは上海音楽学院の教授に、敦煌の楽譜の翻訳に協力してもらい、少しでも唐代の音色に近づける努力をし続けてきました。

 「あなたの復元した五弦琵琶って、本当に唐代の音色ですか、とよく聞かれます。これに対して、私は自分が復元したのは、あくまで現代版の五絃琵琶だと思っています。この試みで、少しでも古代の人々、古代の文化と対話をしたい。その努力により、琵琶に含まれている豊富な表現力を引き出し、その生命力をより生き生きとしたものにしたい、このことに尽きると思っています」

 古代の人と対話し、且つ現代人の生活に古典を浸透させたい。この二つの方向で方さんは取組み続けてきました。エレキ琵琶の試作こそ後者の一環です。

友達作りが好きな方さんに、楽器の電気化に専念する20年来の友人がいます。エレキ琵琶はその友人と3年余りにわたって一緒に研鑽してきた成果です。単なる外見の良さやビジュアル効果だけでなく、ブルーツゥースにも対応しており、様々な通信技術も搭載されている優れものだそうです。発光の色はステージのトーンに合わせて白やブルーに調節できるそうです。

 CCTVの年越し番組では、その琵琶は青色で初お披露目となりましたが、その後は、北京冬季五輪を迎える企画で、中国を代表する名ピアニストの李雲迪さんとの共演で、雪や氷をイメージさせる白で登壇していました。

 「琵琶は中国の民族楽器の王者で、ピアノは西洋楽器の王者です。この二つの楽器の共演は西洋文化と東洋文化の対話そのものです。そういう意味で、冬季五輪は東西の文化が対話するプラットホームを提供する祭典になると私は期待しています」

 ちょっとした改良で、伝統楽器に新しい命を吹き込ませる。これがまさに方さんの取り組みと言えます。

◆伝統文化の「斬新さ」に目覚めてほしい>

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ニューアルバム「詩経」のポスター

 ところで、若者が好きな動画投稿サイトでの発信から、バーチャル歌手や超人気ネット歌手との共演……一連の新しい試みをやっている方さんは決して、ただ人目を引くためだけではなく、そこには彼の伝統文化への熱い愛が込められています。

 「20年ほど前は、中国の音楽ホールに行きますと、ポスターの9割以上が西洋の楽器による、西洋の演目の演奏会で、自分が外国にいるような錯覚になったことを覚えています。中国自身にも、古代から伝わってきた豊かな音楽や文化があります。それをもっと多くの人に知ってもらいたい。その第一歩として、何よりももっとたくさんの人に関心を寄せてもらいたいのです。見向きもしてくれなければ、伝統楽器の良さを知ってもらうチャンスもないのです」

 そして、「現代の多くの『新しいもの』は、その歴史を振り返れば、過去にすでにあったものでした。一例をあげれば、へそ出しルックだって、敦煌壁画にすでに登場していた衣装ですよ(笑)。ルイヴィトンのロゴマークも、古代の琵琶の絵柄からその原型を見てとれます。伝統文化を知れば知るほど、現代に通じる新しいひらめきが生まれてきます。そのために、伝統文化の魅力を広く伝えるのに役立つ企画なら、形に拘らず私は喜んで引き受けています」と、続けました。

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(左)琵琶奏者・方錦龍さん(右)作曲家・馬久越さん

 新しいもの好きの方さんは、目新しさを求める歩みを止めたことはありません。昨年末、中央民族楽団専属の作曲家・馬久越さんと提携して、ニューアルバム『音楽・詩経』をリリースしました。中国最古の詩集『詩経』をモチーフにして、新たに作曲した10曲が収集されています。このアルバムには、方さんが演奏する五弦琵琶だけでなく、弟子や仲間たちによる様々な中国の古代楽器や西洋の楽器も使われています。曲の一つ一つは古典文化の香りが漂っていながらも、現代風の音楽を聴き慣れた若者の耳にも心地よく聞こえるワールドミュージックに仕上がっています。

 「『民楽』(民族音楽の略称)は言葉通り、人々が楽しく聞くことができる音楽です。若者の民族音楽離れを他人のせいにしても何の役にも立ちません。同じ料理を毎日食べると飽きてしまうのと同じように、いつまでも古代伝来の、数に限りがある古曲だけでは、若者を幅広く引き付けることができません。どんどん新しい曲を作り、新しい試みをしてこそ、より多くの人に伝統に目覚めてもらうことができるのです」

 方さんが言うには、琵琶の字には『王』が四つもあり、王の下にはそれぞれ文化の比較と融合を意味する字が入っています。これからも方さんはこよなく愛す琵琶を奏で続け、伝統音楽の魅力を大勢の若者に知らせ続けていくことでしょう。

取材&記事:王小燕、写真提供:方錦龍さん)

■<リスナーさんの受信報告から>

★名古屋・ゲンさん

 方錦龍さんは、インターネットの春節の夕べで視て、衝撃を受けましたが、今回もたっぷりうっとり5弦琵琶の演奏を聴かせてもらいました。琵琶という漢字に「王が四つ」あることにも、初めて気付きました。ラジオだと特に、方さんの指って20本くらいあるんじゃないかと思っちゃいます。特に5本琵琶の世界の楽器、曲の弾き分けには、心を奪われました。
 いちどぜひぜひ生演奏を聴いてみたいです。

★東京都・三輪徳尋さん
 「2021年央視網絡春晚」での方錦龍さんのエレキ琵琶のステージは、とても古典楽器の琵琶とは思えない先鋭的なパフォーマンスを見ることができました。現代のネット世代の若者もこうしたステージをみていれば、自然と伝統的な楽器の音色に関心を持つようなるのだろうと思います。  私も今年の網絡春晚での方さんの演奏で本当に久しぶりに琵琶の音を聞きました。今までは、こうした現代音楽での演奏にはあわないとして伝統楽器を使わなかっただけなのか。長い伝統やが邪魔をして演奏をためらったことなのか。演奏方法によって受ける印象は大きく違い、伝統楽器でも現代的な音楽を奏でることができることが新鮮に思えました。

★高知県四万十市右山五月町・杉村和男さん
 琵琶演奏家方錦龍さんの、インドの民俗楽器シタール、スペインのフラメンコ・ギターなど、いろいろな楽器にそっくりな音色を出されているのには驚きました。琵琶と言うと、日本でも大変な人気だった、女子十二楽坊を思い出します。古典楽器と電気楽器との融合が逆に新鮮で、よく聴いたものです。日本のヒット曲も数多く手がけていましたので、大変親しみが感じられました。
 方錦龍さんの奏でる5弦の琵琶やエレキ琵琶は、音楽の表現力、可能性を更に大きく広げるものでしょう。時折、出てくるトレモロ奏法に、クラシック・ギターの名曲で、演奏難度の高い「アルハンブラの思い出” Recuerdos de la Alhambra”」を連想しました。今後も、これまで琵琶では出せなかった音色や、琵琶で演奏されることの無かったような様々なジャンルの音楽を聴かせてくれるのか、とても楽しみであり、興味を持ちました。また、音楽を通して、中国、日本との交流の深まることを期待しております。

◆ ◆

この番組をお聞きになってのご意見やご感想をぜひお聞かせください。メールアドレスはnihao2180@cri.com.cn、お手紙は【郵便番号100040 中国北京市石景山路甲16号中国国際放送局日本語部】もしくは【〒152-8691 東京都目黒郵便局私書箱78号 中国国際放送局東京支局】までにお願いいたします。皆さんからのメールやお便りをお待ちしております。

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10月29日放送分
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