北京
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中国では、2020年は「ライブ配信元年」と呼ばれています。ライブ配信に代表される電子商取引(EC)は、企業がコロナ禍を切り抜け、安定した経営を守る上で、大きな効果を果たしました。中国有数の製造業の集積地である広東省仏山市順徳区を取材しました。
■ライブコマース、コロナ禍で応用シーンが拡大
湯沸かし器などキッチン家電のA株上場会社「広東万和新電気」には、「生配信基地」と呼ばれる、広さ1100平方メートルのライブ中継専用スペースが設けられています。ここは、同社の電子商(EC)取引センターが5Gの普及が通信速度にもたらした変化と可能性を見込んで、去年下半期に整備したものでした。コロナ禍の今年、設備もスタッフも猛烈なスピードで整備され、現在は8つの常設スタジオで、異なる配信プラットフォームにそれぞれ対応しています。配信時間は毎日朝8時半から夜12時半まで。約20人の配信者が2時間交代で中継に取り組んでいます。
「ダブル11」までのカウントダウン画面
同社ECセンターに設けられた顧客サポートサービスを担当するエリアには、秒刻みで「ダブル11」までのカウントダウンの画面が大きなスクリーンに表示されています。11月11日は、中国ではネット通販セールが本格的に実施される日で、今年は第一陣の販売開始日は11月1日に設定されていました。同センターの胡文広総経理は、万和新電気の販売額は前年同期比で約300%増加し、ライブコマースの活用により、「今年のダブル11の数字は、期待できるものになるだろう」と期待を示しました。
万和新電気の廬宇凡副総裁
同社の廬宇凡副総裁(34歳)は、「ライブコマースは以前までは、主として日用消費財のネット販売に活用されていたが、コロナ禍において、生配信プラットフォームが製品の情報をメーカーから消費者に直接届けることから、家電をはじめ、多くの分野に応用を拡大してきた」と指摘しました。なお、数あるライブ配信の中、今年4月末、同社総裁と地元政府関係者が出演した企画は、1時間半で48万人が視聴し、105万元(約1600万円相当)の成約に結びついたとのことです。
万和新電気のECセンターの胡文広総経理
胡文広総経理は、「ライブ中継をしながら、商品を販売するライブコマースによる売上は、EC全体の2割を占めるようになっている。今後は、人気度の高まりにつれ、更なる上昇が見込まれる」と話しました。
万和新電気の「生配信基地」で行われるライブ中継の様子
万和新電気の売上はコロナ禍で大きな影響を受け、上半期では最悪時20%減が計上されましたが、第3四半期では落ち込み幅が5%減にまで抑えることができました。廬副総裁は、「傾向としては、オンラインとオフラインの売上比例が近づき続けており、ライブコマースを含めた電子商取引分野の頑張りが、落ち込みを効果的に食い止めることができた」という見方を示しています。
■IT企業との連携を重視する行政
ライブコマースに代表される電子商取引の活用は、行政側も重要視しています。万和新電気発祥の地である仏山市順徳区は、製造業企業がひしめくという産業構造を頼りに、関連IT企業との提携に力を入れています。区の後押しの下、9月にショートムービーアプリ「快手」(クアイショウ)が初の公式ライブ配信センターを順徳で立ち上げ、10月にはアリババ社が全国で2カ所目、華南エリアでは初めてとなる「Tモール運営センター」を順徳に設置しました。このほか、大手IT系企業の「BAT」(バイドゥ、アリババ、テンセント)のいずれもとも、踏み込んだ提携を行っているということです。
順徳区経済促進局の何紹欣副局長
同区経済促進局の何紹欣副局長によりますと、テンセント社のネット専用銀行「微衆銀行(We Bank)」は区内の中小企業を対象に、スマートフォンを通して気軽に利用できる小口融資サービスを導入しています。これは全国的にも初の試みだということです。
ライブコマースの運用状況について、順徳区の発表によりますと、今年第1四半期から第3四半期までの間、区内で合わせて12万6097品目の商品が、計8万3954回のライブ配信を行い、約1億2640万人の関心を集め、145億元の売上を計上しました。同じ時期、同区の小売額に占めるオンライン販売額は、対前年比13.5%増の1568億元に達しました。中でも、家電や設備メーカーが最も集積している「容桂街道」では、管内企業の8割が、コロナ後の販売促進策としてライブコマースを導入したということです。
■ものづくりとサービスのあり方を変えていくか
ユーザーと1対1の交流ができるライブコマースの浸透は、今後のものづくりとサービスのあり方を大きく変えるとも見られています。
万和新電気の廬宇凡副総裁はこれについて、「ライブ配信はブランド・イメージをより若くし、新商品をより早く市場と消費者に届けることを可能にしている。これと同時に、オフラインでは、製品や設備を販売してそれで完結にするのではなく、製品と共に一連のサービスを展開し、きめ細やかな需要にも対応できるようにしていく」と話し、オンラインとオフラインとでメリハリのある消費シーンを提供する考えを示しました。
元通信技師だった胡文広総経理は、「これまでの製造業は、自社の技術と資源をもって、造れるものを造っては市場や顧客に提供していた。しかし、今後はそうではなく、ユーザーのニーズをビッグデータを通してきちんと把握していき、顧客志向の商品開発に切り替わっていくだろう」と今後の変化を見据えています。
現在、順徳区には家電、機械装備をはじめ、約1万社の法人があります。コロナの影響から企業の安定した生産と経営を守るため、順徳区政府は4月と6月の2回にわたって、企業への支援策を導入しました。10月末現在、同区2020年第1~第3四半期のGDPは、昨年同期比3%のプラス成長を実現し、このままの勢いが保たれれば、通年ベースの成長率はさらに良い数字になると見込まれています。
(取材:王小燕、斉鵬、李陽、陳木月)