北京
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中国で愛されるスイカを遺した日本人・森田欣一の記憶
聞き手:王小燕
この9月、『日中未来遺産―中国「改革開放」の中の“草の根”日中開発協力の「記憶」―』と題した本が日本僑報社から出版されました。
著者は元国際協力事業団(JICA)中国事務所副所長で、現在は拓殖大学教授の岡田実さんです。
未来へと伝えていかなければならない日中の共通の「記憶」とは何か?この問題意識からスタートして、岡田さんは本の中で中国の改革開放初期、「草の根」で農村の発展を支えた日本人4人の取り組みを取り上げています。この4人とは、中国唯一の「日本人公墓」がある黒龍江省方正県で寒冷地稲作技術を伝えた藤原長作、中国全土でコメの増産に貢献した原正市、スイカの品種改良に心血を注ぎ、北京の人気銘柄に名前の一文字が採用された森田欣一、“一村一品”運動が中国でも広く受容された平松守彦です。
岡田さんは「改革開放四十年の中の『日中開発協力の記憶』は、日中関係においては過去の『戦争の記憶』と決して断絶しているわけではない。むしろ両者は有機的に絡み合い、実質的に日中戦後和解プロセスの一部を形作ってきている」という認識に基づいて、「4人の軌跡をたどることを通じ、日中の未来を考えるきっかけとなれば」と執筆の思いをこう語っています。
今回のインタビューは、この4人の中から、今でも中国各地で愛されているスイカ「京欣一号」の育種指導に携わった森田欣一にフォーカスしてお話を伺います。
森田氏を紹介した中国の関連資料
森田さんは1916年に千葉で生まれ、1939年に東京農業大学農学部育種科を卒業後、坂田種苗、みかど育種農場株式会社で育種業務に従事しました。農業の専門家でありながら、侵略戦争で招集されて中国の東北部に渡航。その後、転戦して日本の敗戦をフィリピンで迎え、1945年末に日本に戻りました。
岡田さんによりますと、森田さんは帰国後「一年間くらい連隊本部で戦死・生存者の名簿の整理をやっていた。そのため、職場復帰が遅れ、戦後のどさくさで坂田種苗にはもどれず、自分で会社を立ち上げた。家では中国の話はほとんどしなかった。話したがらなかったという」。
森田のスイカ育種の原点は千葉産の“旭都”の育種にあります。これに加えて、エリザベスメロンの育種にも貢献した森田は、株式会社みかど育種農場社長、会長、最高顧問などを歴任しますが、中国の改革・開放が本格的に始まった1980年頃から、中国との技術協力の機会が生まれます。
みかど育種農場には韓国、中国などからの研修生を次々に受け入れたのに続いて、1982年に、66歳の森田はFAO(国連食糧農業機関)の招きで中国を訪問。この年に設立された北京市農業科学院蔬菜研究センターなどでスイカの技術指導を行ったのが、その後のスイカ育種の原点でした。
惜しくも2008年に他界した森田さんは、専門書以外には、個人の思いを綴った資料や文字などを残していません。岡田教授は中国側で書きとめられた記録、そして千葉在住のご子息・弘氏のインタビューで入手した資料などに基づいて、「スイカに刻まれた日中協力の『記憶』」として第三章「森田欣一」を書き下ろしました。
岡田教授は、森田欣一のどこに心が打たれ、今後の健全な両国関係の構築に役立つ「未来遺産」の創出にどのような思いを寄せているのか、詳しくはぜひとも番組をお聞きください。
【プロフィール】
森田欣一(もりた きんいち) (1916-2008)
スイカとメロンの研究者。1916年5月千葉県生まれ。1939年に東京農業大学農学部教育科を卒業。種苗商会などでの花卉や野菜関連の育種業務を経て、1944年千葉県「みかど株式会社」の育種担当に。のちに会長、最高顧問となる。
1978年には、国内外から高く評価された「エリザベス・メロン」の育種に成功。
主な著書に『スイカ 作型とつくり方』(農山漁村文化協会)、『すいか フレーベルの科学えほん』など多数。
岡田 実(おかだ みのる)さん
拓殖大学国際学部 教授 専門分野:現代中国、日中関係、対外援助、国際協力
東北大学法学部卒業後、民間企業勤務を経て、1988年に国際協力事業団(JICA)入職。JICAでは北京大学留学、中国事務所員、中国援助調整専門家、中国事務所副所長として約10年間対中政府開発援助(ODA)に従事した他、本部、外務省経済協力局、JICA研究所等で勤務。
2010年、法政大学大学院で政治学博士号を取得し、2012-13年度法政大学法学部兼任講師。2014年度より現職。現在、大学で教鞭をとるかたわら、NPO法人日中未来の会、一般社団法人国際善隣協会などで日中民間交流活動に参加している。
【主な著書】
『日中関係とODA—対中ODAをめぐる政治外交史入門—』(日本僑報社、2008年)
『「対外援助国」中国の創成と変容1949-1964』(お茶の水書房、2011年)
『ぼくらの村からポリオが消えた—中国・山東省発「科学的現場主義」の国際協力』(佐伯印刷出版事業部、2014年)
『日中未来遺産――中国「改革開放」の中の“草の根”日中開発協力の「記憶」』(日本僑報社、2019年)
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