北京
PM2.577
23/19
中国の有名作曲家である王洛賓。中国西北地方の民謡を基にアレンジした「達坂城的姑娘(ダバンの娘)」など、多くの作品が今でも地域の代表的な民謡として広く歌われています。「西北民謡の父」と呼ばれる王洛賓は、亡くなってもう20年になりますが、そのメロディーはいつまでも中国人の心に刻まれ、忘れられない名曲となっています。今回の中国メロディーは、前回に続きまして、その王洛賓の音楽の世界をご紹介しましょう。
西北民謡との深いつながり
王洛賓は1913年、北京に生まれました。祖父は亡くなった人の絵を書く民間の絵師であり、いつも悲しい涙声の中で死者の肖像を描いているといったイメージが、王洛賓の子供のころの記憶として残っていました。そして祖父は、「悲しいことがわからないと本当の楽しさがわからない」と言っていました。この言葉は、まさしく王洛賓の運命をずばり言い当てたものとなりました
王洛賓は18歳の時に北京師範大学音楽学部に進学し、のちにフランスのパリ音楽大学への留学を希望しましたが、盧溝橋事件の勃発により断念しました。その後、愛国青年として中国共産党の軍に入隊し、青海省、甘粛省などの西北地方を転戦していた間、地元民族のラブソングなど多くの民謡を集めました。1939年、26歳となった王洛賓は、部隊に救援物資を輸送するウイグル族の運転手と出会います。そこで彼が歌った民族の民謡の美しいメロディーに魅了され、すぐにそれを書き止め、標準語で歌詞を付けました。ユーモアで生き生きとした歌詞は地元民謡の軽快なメロディーと相まって、独特な情緒が溢れたものになりました。これが「達坂城的姑娘(ダバンの娘)」で、今でも新疆ウイグル族を代表する民謡として広く歌われています。
王洛賓は、20代後半となった1940年代の初めごろに作曲家としての黄金期を迎え、「半個月亮爬上来(半月が昇ったよ)」「瑪依拉(マイラ)」、「康定情歌(こうてい情歌)」などの名曲を生み出しました。しかし、各地での民謡の収集にいそしむあまりに妻との仲が遠くなり、二人はついに1941年に離婚してしまいました。
刑務所でも「美」を見つけたミュ―ジシャン
しかもこの年、王洛賓は、共産党の容疑者として逮捕され、厳しい拷問にかけられました。しかし、獄中でも前向きな気持ちを抱え、刑務所でも「美」を見つけてそれをヒントにし、「(牢獄が好きだ)」などあわせて30の曲を作り、また囚人仲間に唄を歌ったり、踊ったりしました。こうした朗らかな気持ちが多くの人に伝わりました。
1945年、32歳で出所した王洛賓は、友人の紹介で知り合った17歳の看護師、黄玉蘭と結ばれました。黄玉蘭はとても飾らない誠実な女性で、結婚してからずっと夫と苦難を共にします。しとやかでおとなしい人柄に王洛賓も心がゆり動かされ、彼女の名前を「静か」に変えました。しかし1951年、王洛賓は38歳の時に政治問題で再び投獄し、悲しみのあまり妻はその1か月後、わずか23歳で亡くなりました。
王洛賓は、心が広く思いやりのあった妻の気持ちを胸に収め、亡き妻の写真を部屋に飾り、15年間にわたって獄中生活を送りました。
年の差を超えた愛情
1981年、68歳になった王洛賓はようやく日の目を見るようになります。部隊は彼のために名誉を回復し、新疆エリア文化宣伝団の芸術顧問に任命しました。この時に作った多くの歌が国内外に広まり、優れた音楽センスで多くのファンを集めます。台湾の有名な女性作家・三毛もその一人です。
1989年、46歳の三毛は台湾からはるばる新疆のウルムチへ行き、王洛賓の自宅を訪ねました。二人はまるで昔からの知り合いに会ったように、音楽や文学、人生などについて話を弾ませます。そして一緒に馬に乗って天山山脈の草原や新疆南部のすばらしい砂漠の風景を楽しみ、年の差を超えた愛情を結びました。三毛は台湾に戻ってから、王洛賓に告白の便りを寄せます。「千里はるばる、あなたと出会う。これは偶然ではなく運命だ。まるで抵抗できない。目を閉じてもあなたの影ばかり、どうしようもない」と書き込みました。
こうした火のような熱烈な告白を受けた王洛賓でしたが、この時すでに77歳、年の差や性格の違いを考えて、断ってしまいました。ところが、その半年後の1991年1月5日、王洛賓はラジオでその三毛が台北で首をつって自殺したことを聞きます。悲しみのあまり夜も眠れませんでした。瞼を閉じるたびに三毛の明るい笑顔や甘い笑い声が浮かびました。そしてその5年後、王洛賓も病気で亡くなりました。82歳でした。
王洛賓は晩年、こうした波瀾万丈の人生を振り返りました。「作品の多くは苦しみの中から生まれたものだ。生涯でしたことはたった一つ、美しい歌声を人々に伝えて、皆を楽しませ、心に少しでも愛を残すことだった」と話しました。
番組の中でお送りした曲
1曲目 達坂城的姑娘(ダバンの娘)
歌詞:
ダバンの道はかたくて平ら
スイカは大きくて甘い
ダバンの娘 おさげが長い
目がとっても綺麗だ
嫁に行くなら
ほかには行くな
必ず俺の嫁になれ
大金を持って
妹を連れて
馬車でやってこい
2曲目 半个月亮爬上来(半月がのぼったよ)
歌詞:
半月が昇ったよ
イーラーラー 昇った
あの娘の化粧台を照らしてる
イーラーラー 化粧台
半月が昇ったよ
イーラーラー 昇って網戸を早く開けて
イーラーラー 早く開けて
イーラーラー 早く開けて
そして そのバラ一輪を
そっと投げておくれ
3曲目 掀起了你的盖头来(ベールをめくって)」
歌詞:
ベールをめくって
僕に眉を見せて
眉は細くて長いね
こずえに懸る三日月みたいだ
眉は細くて長いね
こずえに懸る三日月みたいだ