北京
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「ロボット・ママ」をテーマにプレゼンテーションをする北京科学技術大学日本語学科三年・孫月さん
「少子化が世界各国で深刻な社会問題になる中、ロボットによる代理出産と育児が難関突破の切り口となるかもしれない」
マイクを手に、イラスト入りのパワーポイントを使いながら日本語で力強く訴えていたのは、北京の大学で日本語を専攻する女子大学生。これは18日午後に北京北西部の清華大学で開かれた「第12回清華野村杯日中経済プレゼンテーション大会」のワンシーンです。「20年後の社会、20年後の私」をテーマにしたこの大会は、予選を潜り抜いた8つの大学の大学生、院生15人が初級、上級に分かれて、事前に作成したパワーポイントを使いながら、日本語でプレゼンテーションする力を競い合うものです。
会場の様子
主催は清華大学と野村総合研究所が共同運営する「野村総研中国研究センター」と北京日本語教師会。中国進出の日系企業や中国のソフトウェア開発企業などが協賛しています。数ある日本語コンクールの中でも、「清華野村杯」は日本語力よりも日本語を使ってコミュニケーションをとる力を重視するのが特徴です。
発表者は次世代通信、IoT、AI、ロボット、バイオテクノロジーなど、技術のイノベーションが社会にもたらす変化をめぐり、それぞれの描く理想的な未来社会と人間の暮らし方を発表しました。中には高齢化社会、方言、LGBT(性的少数者)、ソーシャルビジネスなどに注目したアプローチもあり、未来の社会問題を幅広く、柔軟に捉えている姿勢が審査員や来場した約100人の観衆に印象付けました。
(左)中央財経大学物流学科3年・楊昆さん(右)北京大学通訳翻訳修士1年・宋妍さん
参加した15人の中には、日本語専攻の学生もいれば、独学で日本語を学んだ他の専攻の学生もいました。その中の一人、中央財経大学物流学科3年の楊昆さんは、「とても良いチャレンジになっている。自分の目指す目標との間に開きがあったが、これからも一層精進しなければならない」と参加の手ごたえを振り返りました。亡くなった祖父の思い出を織り交ぜながら、高齢者のトイレ介助についてプレゼンした北京大学通訳翻訳修士1年の宋妍さんは、これまで数多くの作文コンテストやスピーチ大会で優勝した経験があります。宋さんは、「清華野村杯に出場することは、大学時代からの憧れだった。問題への分析力がより強く求められているので、他のコンクールよりも準備が大変だった」と振り返り、「念入りに指導してくれた先生に感謝する」と言葉をかみ締めました。
この大会の審査員を務めるのが初になるトヨタ自動車の田川正之さんは「楽しく聞かせてもらった。社会人になるとなかなか言えないことも取り上げられていて、新しい気づきがあった」と話しました。そのほか、「AI技術が進むからこそ人間らしいことを大切したいところが興味深かった。20年後にも今の柔軟さ、すばらしさを忘れずに取り組んでほしい」(ANA・岡田憲太郎さん)、「プレゼンのやり方が上手で、発想も若者らしい。今日、プレゼンをしてくれるよう人が、20年後、中国をもっとすばらしい社会にしてくれると確信した」(日本大使館・藤岡謙一さん)などといった審査員の感想もありました。
「20年後の社会 20年後の言葉」で受賞した清華大学日本語学科4年・劉詩璇(左)
出場者全員の記念写真
清華大学・ 野村総研中国研究センターの川嶋一郎理事・副センター長は、「様々な技術が急速に展開している中、中国社会の大きな変化に対して、中国の若い学生たちの考え方を日本企業として知りたい」ということが開催に寄せた期待であると語り、来年以降も引き続き開催する意向を示しています。(取材・写真:王小燕)