北京
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天才詩人・海子の歌
5月の北京はあちこちにバラの甘い香りが漂います。メインストリートである長安街も環状3号線も、沿道に色とりどりのバラが咲いて、品のよい香りを放ちます。毎年、花の季節になりますと、天才と呼ばれた詩人・海子の「面朝大海春暖花開(海に向く 春が暖かい 花も咲く)」という詩を思い出します。今回の中国メロディーは、亡くなってから今年で30年となった海子の詩を元にアレンジした曲をお届けします。
天才詩人、自尽
詩人・海子は1989年3月26日、河北省の東・山海関の近くで自ら命を絶ちました。そんな海子は、「貴重なこの世に生きて 人も植物も共に幸せ 恋も雨も共に幸せ)」という詩を残しました。その言葉からは幸せへの憧れが溢れています。しかし彼は、若い体を冷たいレールの上に横たえ、ホイッスルを響かせた列車が通り過ぎるとともに、25歳の命を失いました。
海子は、本名は査海生といい、安徽省の普通の農家で生まれ育ちました。幼い頃から優れた才能を示し、神童と讃えられ、僅か15歳で名門・北京大学に進学しました。そして新文化運動の幕を開き、芸術をリードする中国の最高学府が詩の創作にふさわしい環境を与えてくれたのです。また、故郷の立ち上る炊事の煙やそよぐ麦の穂が時々夢の中に出てきて、農家出身の海子にとって芸術的なひらめきをもたらしました。
青草を踏むと
自分が見事に綺麗な黒土になるようだ
海子の詩には、麦畑、海、村、花、空、太陽などがよく出てきて、子供のころの田舎暮らしへの懐かしい思い出が感じられます。四季の移り変わりや風の方向、麦の生長がしみじみと感じられ、海子は「最後のロマン主義詩人」と呼ばれています。
海に向く 春が暖かい 花も咲く
「面朝大海春暖花開(海に向く 春が暖かい 花も咲く)」という詩は海子の作品で特に明るく暖かなものとされます。詩の中に、多くの希望に溢れる言葉がありますが、その暖かい春に冬の寂しさが垣間(かいま)見えます。彼は、見知らぬ人すべてを祝福しましたが、自分は神に召されました。この詩を作った僅か2ヶ月後に命を絶ったのです。若い生命はこの世に暖かな絶唱を残しました。
明日から、幸せな人になる
馬に餌をやり、薪を割り、世界を一周
明日から、食べ物や野菜に気を配る
私には部屋がある、海に向く、春が暖かい、花も咲く
明日から、すべての親戚に手纸を書く
私の幸せを伝える
幸せの稲妻が教えてくれたものを
すべての人に教える
すべての川、すべての山に暖かい名前をつける
よそ者よ、祈ってあげる
輝かしい未来があるように
爱し合う人が夫婦になるように
幸せになるように
私ただ海に向く、春が暖かい、花も咲くよう願う
悲劇的な運命
詩人はよく神の申し子と言われます。海子は特にそのようです。うわべは口が重く、振舞いもぎこちない若者でしたが、2人で話し合うとおしゃべり好きでよく笑い、そして深く付き合うと、純真な心や様々な苦しみを積み重ねた目つきがとても魅力的でした。
彼の詩は、命のすべてを燃やして鍛え上げられた宝石であると称えられます。純粋で美しく、そしてとてもロマンチックで、天性のひらめきを持ちます。そんな海子は真摯な心を世に捧げようとしますが、受け入れてもらえず、生活に苦しむようになって引きこもってしまいます。
この天才詩人の悲劇的な運命は、次の「九月」という詩から感じ取ることが出来るでしょう。
多くの神様の死を見た草原に花が咲きわたり
遠くからの風は一段と遠く
馬頭琴の泣き声 涙も枯れ果て
遠くを草原に返す
一つは木切れ 一つは馬の尾
馬頭琴の泣き声 涙も枯れ果て
遠くには死の中で花が集まるのみ
月が鏡のように草原の千年の歳月を照らす
馬頭琴の泣き声 涙も枯れ果て
馬を鞭打ち走らせる
孤独な詩人
海子は、中国の詩の世界でも天才的な詩人の1人でした。彼が命を絶った理由については、今でも様々な説が入り交じっています。青春を燃やして詩を作り、多くの素晴らしい作品を作った一方で、自分を奈落の底に落としていったのでしょうか。そんな、命への想いや孤独への訴えを表す「日記」という詩があります。
この詩は、異郷にいる弟が姉に日記で思いを伝える、といった内容ですが、実はひとりぼっちの海子が、唯一それを分かってくれる恋人に気持ちをもらすものなのです。詩に出てくる「デレーハ」とは、チベット高原の小さな町で、海子の恋人の故郷だということです。
姉さん、僕は今夜デレーハにいる かすむ夜のとばり
姉さん、僕には砂漠しかない
草原の果てで 両手に何もなく
悲しむこの時に一滴の涙もつかめない
姉さん、僕は今夜デレーハにいる
この雨の中の寂しい町よ
通り行く人や住む人のほか
デレーハ 今夜
ここは唯一の、最後の気持ち
ここは唯一の、最後の草原
僕は石を石に返し
勝ちを勝ちにし
今夜、ハダカムギはそれだけのもの
すべては成長する
今夜、僕には美しい砂漠しかない
姉さん、僕は今夜 誰にも興味も無い ただ会いたい
海子が亡くなって30年が経ちましたが、詩を命と見なす彼の考えが多くの若者に影響を及ぼしています。1980年代の詩の世界のシンボルと言われた天才詩人の海子。その命が消えて、詩の黄金時代が終わったとも見られています。
番組の中でお送りした曲
1曲目 面朝大海春暖花開(海に向く 春が暖かい 花が咲く)
この歌は海子の「海に向く 春が暖かい 花が咲く」という詩をもとにアレンジした同じタイトルの曲です。
2曲目 九月(くがつ)
この曲は「九月」を元にアレンジした同じタイトルの歌です。盲目の歌手・周雲蓬の物寂しい歌声が、詩の中の痛ましい心を余すことなく表現し、人々の心の癒えない苦しみを歌い上げました。歌声の中に涙がほとばしる中、心の痛みが癒されるのではないでしょうか
3曲目 德令哈一夜(デレーハの夜)
この歌は歌手のダオ・ランが「日記」という詩をモチーフにしたものです。