北京
PM2.577
23/19
11月の北京は秋色が深まり、落ち葉のじゅうたんが敷き詰められています。古来より秋を題材とする詩と歌には独特な魅力が溢れています。例えば、中国の古い詩歌を基にアレンジした歌「在水一方(水のほとりにあり)」はテレサ・テンに歌われてから、広く伝えられるようになりました。作品の中の東洋文化の趣は、最も美しい恋の表現と讃えられています。今回の中国メロディーはそんな「在水一方(水のほとりにあり)」をご紹介しましょう。
「詩経」から生まれた恋歌
「在水一方(水のほとりにあり)」は中国の最も古い詩集「詩経」の中の「蒹葭(荻と葦)」という詩からイメージを膨らませて作詞したものです。
緑草は黄味を帯びて青々と茂り 白い霧が一面に立ち込める
あの麗しの人は 河の向こう岸にいる
流れに逆らって上り 彼女の傍に寄り添いたいと願うが
岸辺の流れは激しく 道路は遠く又長く寄り付くことが出来ない
流れに随って下り 彼女の居場所を探し求めたいが
ただかすかに見えるだけ まるで彼女が河の中央にいるかのごとく
歌は古い話題・恋をテーマにしたもので、詩の中であの人の姿は描かれていません。さらさらと流れる川、生い茂る草など、美しい秋の景色を作り上げる女性は、どれほど世俗から遠ざかる美しさを持っているかが読者は想像できるのではないでしょうか。この歌は女性を恋しく思っているのに、近づけなくて告白できずに悩んでいる気持ちを歌っています。また、自分と女性が川に隔てられている様子は隠喩で、詩人の恋の苦しみを表しているとされています。
柔らかく優しいテレサの在水一方
この歌は1980年代にテレサ・テンに歌われ、ポップスの代表的な作品となりました。テレサ・テンの優しく切ない歌声は「緑草は黄味を帯びて青々と茂り、白い霧が一面に立ち込める。あの麗しの人は、河の向こう岸にいる」というロマンチックな情景へと誘います。テレサ・テンの落ち着きある、柔らかで潤いのある歌声から深い愛情を感じることができます。また、そのあとに続く「流れに逆らって上り、彼女の側により添いたいと願うが」という部分は、道がどんなに困難でも、天の果て海の果てに行ってまで好きな人の側に寄り添いたいという一途な気持ちを表しています。
テレサ・テンは人々が真摯な愛情を渇望し、この世界に優しくあってほしいという気持ちを歌いました。
味わい深い李健の在水一方
「在水一方(水のほとりにあり)」は1980年代にテレサ・テンに歌われてから、多くの歌手にカバーされました。しかし、どんな歌手であってもテレサ・テンを超えることはないと言われていました。
2015年、湖南衛星テレビのオーディション番組「我是歌手」の中で歌手・李健は、この歌をテレサ・テンと全く違うスタイルで表現し、独特な魅力を放ちました。李健の歌声は時に泉のように清らかで美しく、時に果てしない夜空のように高く澄み、歌詞の中の詩の趣とうまく融合させて、観客たちを愛情あふれる情景へと誘いました。
また、曲の間奏部分はメキシコ映画「イェセニア」のテーマ曲の旋律を取り入れ、西洋音楽のようにクライマックスを盛り上げ、最後は、東洋音楽の要素をもって素朴で味わい深い境地を際立たせました。李健は「流れに逆らって上り、彼女の側により添いたいと願うが」という部分では、恋の歌であることを越えて、人生の求めるものにまで解釈を広げました。そして、「人生には多くの困難や挫折があるが、美しいものを求める足取りはいつまでも止まることはない」という思いを表現しました。
番組の中でお送りした曲
1曲目 テレサ・テンバージョン「在水一方(水のほとりにあり)」
2曲目 李健バージョン「在水一方(水のほとりにあり)」