北京
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この9月10日~17日、日本から初訪中した小説家で、劇作家の古川日出男さんのお話をお届けします。
昨冬、早稲田大学で「東アジアの文学・文化研究の国際化とナショナリズムの陥穽」)をテーマにしたシンポジウムが開かれ、パネリストとして参加した古川さんは同じ会議に出席した中国の文学者や学者と交流ができたことが、今回の北京訪問に結びました。
1週間の北京滞在では、古川さんは一般の観光だけではなく、中国現代文学館の訪問と交流、清華大学や北京外国語大学での講演会にも招かれ出席しました。
この二つの講演会では、古川さんは作品を例に、自らの創作理念や文体の作り方、現代社会における文学の在り方、さらに「アジア文学」という新しいカテゴリー誕生の可能性などをめぐり、中国の文学者や学者、学生たちと語り合っていました。時には、変化にとんだ朗読パフォーマンスも織り交ぜ、その都度、会場から暖かい拍手が沸き起こりました。
今週の番組はその中から、9月13日午後、「千の耳を持つように――ヒップホップ文学という実験」と題した清華大学文学創作&研究センターの主催による講演会の様子をピックアップしてご紹介します。当日の講演会には清華大学文学創作・研究センターの主任教授で、茅盾文学賞受賞作家でもある格非さん、清華大学人文学院の王中忱教授、青年SF作家の賈立元副教授なども参加。古川さんは講演の中で、最新作で、今年2月に新潮社から刊行された『ミライミライ』を例に、自分の最新の文学創作活動を紹介し、来場者からの質問に答えました。
ヒップホップ文学の由来について、「文学が行き詰まりに入っている。いろんな力を借りたい。『ミライミライ』を書くときは、ヒップホップという音楽の力を借りてみようと思ったのです」と話しています。そして、「僕からすれば、ヒップホップのボーカル、ラッパーはマイク一本で戦うように見える。対して、作家である僕は、言葉という武器しかなく、筆一本で世の中と格闘している。そのために共感をしている」と胸中の思いを単純明快に明かしてくれました。さらに、「人間の両耳に入ってくる音は完全に同じではない。それでも、私たちはいつだって、二つの声が同時に聞こえているわけです。小説、詩などの文学の役割というものは、人間は二つの耳しか持てないけれども、詩人や小説の中の登場人物たちの持っている耳をどんどん足すことによって、文学作品を読むことで、たた一人の読者が千もの耳を持てるようになれることだと思っています」と訴えていました。
今回は絶えず境界を超えるよう、文学の新しい可能性を模索し続けている実力派作家の話です。
【プロフィール】
古川日出男(ふるかわ ひでお)さん
小説家、劇作家
1966年福島県郡山市生れ。1998年に『13』で小説家デビュー。2001年、『アラビアの夜の種族』で日本推理作家協会賞、日本SF大賞をダブル受賞。2006年『LOVE』で三島由紀夫賞を受賞する。2008年にはメガノベル『聖家族』を刊行。2015年『女たち三百人の裏切りの書』で野間文芸新人賞、2016年には読売文学賞を受賞した。文学の音声化にも取り組み、朗読劇「銀河鉄道の夜」で脚本・演出を務める。2018年、長編小説『ミライミライ』を刊行。著作はアメリカ、フランスなど各国で翻訳され、現代日本を担う書き手として、世界が熱い視線を注いでいる。他の作品に『ベルカ、吠えないのか?』『馬たちよ、それでも光は無垢で』『MUSIC』『ドッグマザー』『南無ロックンロール二十一部経』など。
◆リスナーのお便りから/愛知県・ゲンさん:
古川さんの講演会の模様は、あまりにも衝撃的で、一度聞いただけでは感想が書けませんでした。
内容自体はよく理解できるのですが、ラジオのせいか、なぜか、心が時間に間に合うようについていけない。
なので、何度もパソコンのネットで聴くことにしました。1週遅れの感想ですみません。
ホームページの古川さんのアップの写真は、全体にしっかり写っているのに、
なぜか、左手だけが大きくぶれています。
ここに、古川さんの手から生まれた「音」や「時間」を感じました。私との時間差かもしれません。
初めての中国訪問だったそうですが、侵略の歴史があるので、
どういう顔をして中国に来たらいいのか、分からなかったとのこと。
参りましたね。
純朴な私は、何度も中国を訪れています。中国の人も私の家に来ます。平気で思ったままおしゃべりしています。
素朴な私は、「昔々」という言葉に育てられ、「未来々」なんてこと、考えたこともありませんでした。
参りましたね。
北海道を舞台に未来に起こるかも知れない歴史、それをヒップホップに託すというのは「何のこっちゃ?!」。
そこへ突然ラップのような朗読が、土砂降りの雨のように降ってきました。
リズムが本人からほとばしり、これぞ胸ぐらをビートでつかまれた感じでした。
過去現在未来がゴチャゴチャに行き来するという迫力。
民衆は熱狂しやすく覚めやすい。二つの正義を同時に聞くことが必要ではないか、それが小説の役割ではないか……
なる程!! わかったぞ!! それを千の耳を持つようにって言うのだね。
王小燕さんが「千の風は数えられないけど、耳は数えられる」と言いました。
ヒップホップ文学の実験っていうのは、風を感じて切り刻んで、人間の自他に入り込んでいくことかもね。
風は過去からも未来からも吹いているような気が私はします。
軍用犬の話が出ました。そこだけ、古川さんとは速度違いの私は、波長がピタッとあって、パッと理解出来ました。
父が中国で軍隊にいた時、駐屯地で必ず兵隊の仲間達と犬を飼っていました。写真に残っています。
もちろん、中国の犬です。私はどうして人間とは仲良くできなくて、犬とは仲良く出来るのだろうと、
ずーーーーーーっと、私の視覚の中で不思議に想い続けているのです。今も。
そうなんだ。人を外から見る。境界を越える。
自分の意見を言葉にするのは難しいって、古川さん、おっしゃってる。
だから、写真に写った犬の、「声」をアンプにかけて欲しい。それを大きな声にひろげていけば、きっと大きな融合が見つかる。
と、私は、勝手にそう思ったのでした。
次回も続くとのこと、楽しみにしています。そして又古川さんの言葉との時間差にオタオタし、
又何かにハタと気付かされると思います。
楽しみにしています。
あぁ、この講演会、現場で聞きたかったと思うほど。