北京
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中国のバイオリニスト・盛中国が7日に心臓発作で亡くなりました。享年77歳でした。盛中国はアメリカの著名なバイオリニストになぞらえて、中国のユーディ・メニューインと呼ばれていました。彼は生前、中国バイオリン協会会長を務め、中国クラシック音楽の「常緑樹」とされています。彼が奏でた「梁山泊と祝英台」は多くの音楽ファンに親しまれ、また、彼と日本人ピアニストの瀬田裕子との国際結婚も中日友好のシンボルとして受け止められています。今回の中国メロディーは盛中国の音楽世界をお送りしましょう。
バイオリンの神童
盛中国は、1941年に重慶で生まれました。父・盛雪は有名なバイオリンの教授で、母・朱氷はソプラノ歌手という音楽一家です。音楽家の家庭に生まれた彼は5歳から父にバイオリンを学び、9歳の時には武漢のラジオで彼が奏でたモーツァルト、ベートーベンの名曲が放送され、「バイオリンの神童」と呼ばれました。
1960年にはモスクワに留学して、有名なバイオリニストだったレオニード・コーガンに師事し、1962年のチャイコフスキーコンクールのバイオリン部門で特別栄誉賞を受賞しました。
精錬する鋼鉄のごとき芸術人生
1964年に帰国してからは中央楽団に入団しました。これからその才能でさらに活躍する黄金期を迎えようとしていた時、中国では巨大な政治の嵐が吹き荒れ、文化大革命の勃発に伴って、盛中国は人生のどん底に落ちてしまいました。演奏が禁止されただけでなく、農村に下放され、労働を強いられました。バイオリンを引き慣れていた手は毎日、鍬を握り、苦しい農作業をしなければなりませんでした。
これは音楽の天才・盛中国に大きな挫折感をもたらしたに違いありません。しかし、これらの挫折を経験したからこそ、彼はただならぬ人生の道理を悟ります。盛中国は「アーティストにとって苦難は何より貴重な財産だと思う。社会のどん底に陥った時、人生の真理を悟ることができる。これはまるで鋼鉄を精錬するようで、強い火の中で繰り返して製錬してこそ、不純物を取り除き、鋼鉄をより純粋にさせる」と語っています。
「梁山泊と祝英台」との音楽の縁
1980年代、音楽の舞台に戻った盛中国の芸術の命は輝きを放ちました。美しいメロディーが彼のバイオリンから流れ、情熱溢れる芸術の魅力を感じることができます。
1959年、上海音楽学院の学生・何占豪と陳剛が共同制作したバイオリン協奏曲「梁山泊と祝英台」の美しくて切ないメロディーは当時、ソビエトで留学している盛中国を感動させました。帰国後、彼はこの曲をモチーフにバイオリン独奏曲「梁山泊と祝英台」を作り、この曲を最も多く演奏したバイオリニストとしても知られています。
彼はなぜこれほどまでこの曲に傾倒したのでしょうか。盛中国は次のように語っています。 「『梁山泊と祝英台』は中国の民間伝説を素にして、西洋の交響楽の手法で表し、その迫力あるメロディーは劇的な表現力を持っていた。バイオリンは楽器の中の皇后と呼ばれ、その表情豊かな音色は梁山泊と祝英台の心の世界をうまく表現することができる。私の演奏はこの若いカップルが命を賭けて恋を求める執拗さを表し、人々に封建社会の残酷な現実を感じさせる。恋愛と現実という矛盾が激しければ激しいほど、人々の同情を引くことができると思う。僕は1万回以上この曲を演奏してきたが、毎回、自分の人生のいろいろな体験を曲の中に入れるので、作品に新しい活力を注ぎ続けている」
戦友かつ恋人の「オシドリ夫婦」
1987年、盛中国は日本でコンサートを行いました。当時、彼のバイオリン独奏の伴奏を担当したピアニスト・瀬田裕子は日本の国立(くにたち)音楽大学を卒業したばかりでしたが、彼女の素晴らしい演奏は盛中国に深く印象を残しました。
それ以来、この二人のコンビは世界各地の舞台で演奏するようになり、1994年、国境がない音楽の中で恋を実らせた盛中国と瀬田裕子は夫婦の縁を結びました。結婚後、盛中国夫婦はオシドリ夫婦の共演を続け、中日の友好と協力のシンボルとして知られています。
二人は20歳近くもの年齢差がありましたが、ずっと愛情が色あせることない仲の良い夫婦でした。その夫婦円満の秘訣について盛中国は「私たちは戦友かつ恋人である。夫婦の間に恋しかないのは足りないことだと思う。僕と妻は戦友なので、同じ夢を求めるために、共通の話題が多くなり、互いに助け合い、共に進歩している」と話しています。
番組の中でお送りした曲
1曲目 新疆之春(新疆の春)
この曲は1956年に作られたバイオリン独奏曲で、新疆ウイグル自治区の人々が幸せな生活を謳歌している様子を描きました。
2曲目 梁山泊与祝英台(梁山伯と祝英台)
この曲は梁山伯、祝英台の二人の恋愛を語った民間説話を題材にしたバイオリン曲です。
3曲目 黄河(こうが)
この曲は盛中国夫婦が共演した作品で中国の母なる川・黄河を讃えるピアノとバイオリンの合奏曲です。