北京
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キーワード①
【无界零售】(wújiè língshòu)[名]ボーダレスリテール,アンバウンデッドリテール.
「无界」は境界がない、壁がないという意味で、ボーダレス、アンバウンデッドという訳がつけられています。「零售」は小売、リテール。これらを合わせて「无界零售」としてボーダレスリテールという意味になります。他にも、アンバウンデッドリテールという訳語もつけられています。
これは、字面からも想像がつくことと思いますが、オンラインとオフラインの垣根を取っ払って、どこでもいつでも快適に買い物ができる世界を作ろうという考え方です。
このコンセプトは大手EC「京東商城(JD.com)」の代表である劉強東氏が提出したもので、小売業自体を変えるのではなく、小売業を囲むインフラを変えて行こうという考えが注目されました。
言葉で言っても分かりにくいかもしれませんので、例を挙げてみましょう。
これまで、各IT企業には自分なりの業務があり、互いに交わるところがありませんでした。検索エンジンは検索と広告、SNSはソーシャルコミュニケーション、ショッピングサイトは買い物と、それだけをやっている感じがありましたが、よく考えると、インターネットが進化したことで、細分化されたユーザーは、たくさんのアプリをあれもこれもとダウンロードしなければならなくなっています。そうすると、頻繁にアプリを切り替える中で疲れてしまい、買い物する気すらもなくなってきてしまいます。
そこで、業界の壁を打ち破り、インターネットの隅々まで購買行動を浸透させるこの「无界零售」のコンセプトが生みだされました。検索エンジン、SNSアプリ、ニュースアプリなどのいずれかからもショッピングサイトにアクセスでき、公式サイトとまったく同じように買い物できるようになります。そして、それだけでなく、かつてのアクセス内容が蓄積されて、ビッグデータとして分析されることによって、それぞれのユーザーが好みそうなものを欲しそうなタイミングでリコメンドすることもできるようになります。つまり、「何をしていても好きそうなものが追いかけてくる」感じになるわけです。
JD.comはこのコンセプトのもとに、搬送用ドローン、無人車、AR化粧鏡、スクリーンを見ながらのショッピング、無人コンビニ、無人コンテナ、全自動写真合成プログラムなどの開発に力を注いできました。さらには、実店舗との協力も始めています。このすべてが緩やかにつながって「无界零售」が実現されるわけです。日本のIT業界も、うかうかしていられなくなりますね。
キーワード②
【新零售】(xīn língshòu)[名]ニューリテール.
企業がインターネットをプラットフォームとして、ビッグデータやAIなどの先端技術を利用し、Eコマースやオフラインの買い物体験及び物流を深く融合させた小売りのスタイルを指した言葉です。これは、2016年10月、アリババグループの馬雲(ジャック・マー)会長が講演の中で言及したコンセプトです。
これは、要はユーザーエクスペリエンスを高めて、消費者がいつでも最短時間で必要な商品を手に入れられる状況を作る動きといえます。
これまで、Eコマースはオフラインの実店舗のライバルとして見られていましたが、この「新零售」では、その対立をなくし、互いのメリットを生かして、共存共栄の関係を作ることを目指しています。
ジャック・マー氏は「今後10年、20年の間にはEコマースという言い方がなくなる。新小売が残るのみだ」と言い放ちました。実際に、2016年11月11日には、国務院弁公庁hが『実体小売のイノベーションとモデルチェンジ推進に関する意見』を公布し、融合発展に適応した基準規範や競争規則を整備し、実体小売業のIT化レベルを引き上げ、オフラインの物流やサービス、体験などの優位性を、オンラインの顧客、資金、情報それぞれのフローと融合して、スマート化、ネットワーク化の布石とすることを強調しています。
オンラインとオフラインの融合、そして、「人、モノ、倉庫、配達」の融合、そして、消費者、モノ、配達、サプライチェーン、サプライサイド構造改革を融合させていくことが「新零售」の概念となるわけです。新たな小売りモデルの誕生ということになりそうです。
さて、一部の学者などは「新零售」とは、つまり小売りのデータ化で、小売りをオンライン+オフライン+物流という形に連結し、消費者を中心に会員データ、支払データ、在庫データ、サービスデータなどを統合管理することだとも説明しています。
よく考えると、この二つのコンセプトはかなり似ているということができます。JD.comとテンセントチーム、そしてアリババチームがそれぞれに囲い込みを始めている様が感じられます。
バーチャルな小売であるネットマーケットだけでは物足りなくなり、アリババはタオバオやTモールでの経験をもとにプラットフォーム貸しのような形でオフラインの店舗を集め始めています。一方のテンセントとJDはどちらかというと元から「モノ」を売っている人たちですから、その手を客の側まで伸ばしていこう、という感じの印象を与えます。どちらもオンラインとオフラインの結合には変わらないのですが、バーチャルなプラットフォームから始まった「サイバースペース貸しのアリババ」と、深センで生まれた「新しもの好きな騰訊」と「自分でもモノものを売っていたJD.com」が組んだ攻めの小売の違いが出ているように感じます。
いくら稼いでも出て行ってしまいそうな、そんな危機感を覚える今日この頃です。