北京
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23/19
北京は7月になり、一年で最も暑い季節に入りますが、言い換えれば北半球の子供たちにとって間もなく夏休みを迎えることを意味します。子供時代の夏休みを振り返ってみると、アニメをたっぷりと楽しんでいたことを思い出します。今回の中国メロディーは中国制作のアニメ映画「大魚・海棠(ビッグフィッシュ&ベゴニア)」の主題歌と挿入歌をお送りしましょう。
涙が出るほど美しい世界
中国国産アニメ「ビッグフィッシュ&ベゴニア」は2000年前の戦国時代の思想家・荘子の「逍遙遊」という文章の中に記された「北冥に魚あり、其の名を鯤と為す」という物語を起源としています。そのほかにも、古書や上古の神話の要素を融合させた壮大なストーリーです。
舞台は中国。海の下に広がるもう一つの世界。住人は世界を管理する力を持つ、いわば神のような存在です。そこに住む少女・椿は、ある日、イルカに姿を変えて人間の世界に行きますが、漁の網にかかってしまいます。あわや命を落としてしまうところを人間の少年が救いましたが、代わりに少年は命を落としてしまいました。少年の勇気に感動したチュンは彼の魂である小さな魚を守るようになります。その魚は次第に成長し、最終的には「天を舞う大魚」―鯤となります。しかし、それは神の禁忌を犯してしまったことでした。様々な障害が立ちはだかる中、幼馴染で兄のような存在の少年・湫は、チュンと鯤を人間世界に戻そうとします。しかし、この愛し合う2人のために、湫は自らの命を犠牲にすることになりました。
中国情緒漂う映画絵巻
「ビッグフィッシュ&ベゴニア」が2016年4月に上映されると、国内外の多くの観客から絶賛されました。様々な創意工夫や独特な色彩設計をはじめとする中華的なビジュアルは、観客たちの目を奪いました。神秘的な土楼や揺れ動く灯篭、立ち込める深い霧、水墨画のような山々は、まるで中国絵巻のようで観客たちの目の前に広がりました。
また、映画の中の少年少女3人の主人公が、かけがえのない命を懸けてまで愛と自由を求める真摯な感情は、観客たちを何度も涙させました。映画の中で自らの命で鯤に恩返しをしたチュンが鯤と海の底の世界を離れないと命を落としてしまうことを知った湫は、ためらうことなく自らを犠牲にしようとするシーンがあります。そのとき、霊能力を持つ老婆は湫に「今の若者はみな自分の命を大事にしない。私のような年寄りが、手だてを尽くして長く生きようとする」と感慨深く話しました。それに対して湫は「嬉しくなければ、長く生きても意味はない」と答え、生きる意味に向き合います。
12年の心血を注ぐ大作
「ビッグフィッシュ&ベゴニア」は、2017年12月にハンガリーのブダペストで開催された第15回国際アニメーション映画祭で長編作品賞を受賞しました。
映画の中の音楽と映像は、中国伝統文化ならではの趣が溢れているだけでなく、細部にまで中国の伝統文化の息吹が感じることができます。例えば、映画の冒頭部分で水辺で星空を織り出す女性は、中国古代の神話に出てくる嫘祖です。彼女は伝説の黄帝軒轅の妃で、養蚕を発明したことから、嫘祖は養蚕の始祖と言われています。このような中国の伝統文化に溢れる映画は「チャイニーズファンタジー」と呼ばれます。
しかし、そんな「ビッグフィッシュ&ベゴニア」の制作は実に12年もの時間を費やしました。映画の脚本・監督を務めた梁旋(リャン・シュエン)は「21歳の頃に夢を見た。その美しい夢を映画にして届けたいと思った。しかし映画作りはあまりにも大変で、12年が過ぎ、僕は少年からおじさんに変わった。途中、何度も資金不足で頓挫しながらもついに公開することができた」と感慨深く語りました。
番組の中でお送りした曲
1曲目 大魚(たいぎょ)
この歌は「ビッグフィッシュ&ベゴニア」のイメージソングです。男性歌手・周深が女性よりも女性らしく澄んだ歌声で、主人公の3人椿、鯤、湫の複雑な運命と感情を細やかかつ生き生きと表現しました。
歌詞:
波は音もなく 深い闇夜に沈み
大空の果ての果てまで覆ってゆく
大魚は夢の狭間を泳ぎ
眠りにつくあなたの輪郭を見つめている
同じ色に染まる海と空を眺め 風や雨の音を聞き
繋いだあなたの手が 果てしなく広がる水面の霧を吹き飛ばす
大魚の翼は あまりにも大きく広がる
私は時間の縄をゆっくりと解いてゆく
あなたが遠くへ飛び去り 私から離れていくのは怖いけれど
あなたをこの場所に永遠に縛りつけてしまうのはもっと怖い
一粒一粒の涙は全て あなたへと流れ
初めての出会いへと還ってゆく
2曲目 在这個世界相遇(この世界で出会う)
この歌は映画「ビッグフィッシュ&ベゴニア」の主題歌で、香港の歌手・イーソン・チャンが歌ったものです。イーソン・チャンは収録する時、映画の物語に感動し、何度も涙を流しながらこの歌を収録したと言われています。
歌詞:
すべての大魚はみな出会い
すべての人はみな再び会える
命の旅は絶え間なく繰り返す
すべての夢の中にあなたがいる
あなたはもう風雨になり
時間を超えてもここに来るのだろうか
秋が去り 春が来て カイドウの花が咲く
3曲目 湫兮如風(そよそよと吹く涼風)
この歌は映画のエンディングテーマで、この歌は日本の作曲家・吉田潔が作曲したものです。曲名は戦国時代に自由奔放な愛情を求めた作品「高唐赋」の中の「湫兮如风、凄兮如雨(涼風がそよそよと吹き、霧雨はうら淋しい)」という詩句からインスピレーションを受けて作られました。これは主人公の一人・湫の悲しい運命を示唆しています。吉田潔はこの曲で2016年度台湾金馬奨映画祭の最優秀オリジナル音楽賞の候補にノミネートされました。
歌詞:
太陽 月 星が昇ったり 沈んだりして繰り返す
涼風がそよそよと吹き 繰り返す
あなたが私の心にいてよかった
いつの日か 私が将来あなたの誇りとなってほしい