北京
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晩春、街角を散歩していると、道端の大木に絡みつくように紫色の藤の花がふさふさとたくさん咲いています。濃淡鮮やかな藤の花はまるで美しい花の波のようで、その柔らかく甘い香りの中から喜びとともに寂しげな情緒を感じさせます。今回の中国メロディーは藤の花に関する伝統文化と音楽をお伝えしましょう。
「紫藤図」
中国では、藤は古来より縁起のいい花として人々に親しまれてきました。麗らかな春、ふさふさとゆれる藤の花は遠くから見れば、まるで紫色の雲のようでとても美しく、そんな藤の花は「紫気東来(紫のめでたい兆しが東方よりたなびく)」という諺として、中国伝統絵画の縁起のよい題材として使われてきました。
北京故宮博物院に所蔵されている清の画家・呉昌碩が作った「紫藤図」は気迫がありながらのびのびとしたスタイルで、藤の生気溢れる様子を表し、中国絵画の名作と讃えられています。
四合院の藤
昔、北京の高官が住む立派な四合院の庭の中には、いつも藤の木が植えられ、主人の地位の象徴だとされていました。そんな四合院から北京ならではの甘くて懐かしい趣を感じられます。
黄昏時、自転車に乗って、北京の狭い小道・胡同の中を通り抜け、夕陽の光に照らされた温かさを感じながら、灰色の壁や屋根の民家、古風で飾り気ない街を見渡していると、ある民家の低いドアから垂れ下がった淡い紫色の藤の花を見つけました。この波のような花はゆっくりと私の心の中に流れて来て、心の中の不安と憂いを瞬く間に洗い流してきました。この4月の藤の花はいつまでも私の心の中に咲いていることでしょう。
中国オペラの名曲「藤の花」
偉大な文学者・魯迅は1925年に短篇小説「傷逝」を書き上げました。この作品は魯迅の唯一の恋愛小説で、作曲家・施光南はこの小説をモチーフにしたオペラ「傷逝」を1981年に北京で公演しました。オペラの主題歌「紫藤花(藤の花)」は抑揚がある美しいメロディーで多くの観客の心を打ち、今でも中国オペラの名曲として広く歌われています。
そんなオペラのストーリーは、知識人である男女の主人公・涓生と子君が親の反対を押し切って自由恋愛を貫き同棲を始めます。しかし、経済上の困難をはじめ、生活に追われて次第に共通の言葉を失っていき、最後には破局してしまう恋の悲劇を物語っています。
番組の中でお送りした曲
1曲目 紫藤花(藤の花)
歌手・韓雪が歌ったこの歌は女性を象徴する藤の花が、恋の中で成長する様子を歌いました。
歌词:
藤の蔓は風の中で微笑み
彼女は太陽の光の下で輝く
その曲がりくねる姿はなんと美しいのだろう
藤の花よ 私の恋は心の中に絡みついている
2曲目 故郷是北京(故郷は北京)
この歌の歌詞には藤、古いエンジュの木、四合院が登場し、北京の伝統的な住宅・四合院から北京ならではの甘くて懐かしい趣を感じさせます。
歌詞:
東西南北 多くの町を渡り歩いたが
よく考えてみても 最も愛するのはやはりわが北京だ
藤 古いエンジュの木 四合院を見るだけで
甘くて懐かしいと感じる
北京なまりも北京の風情も味わい深い
3曲目 紫藤花(藤の花)
この歌はオペラ「傷逝」全体の主題歌です。オペラの第一幕「夏」では男女の主人公・涓生と子君がデュエット形式で歌い、二人の美しい愛の憧れを表しました。
歌詞:
(男声)
藤の花 藤の花
白くて紫色の花は霞のように美しい
彼女に送るため
僕はあなたをそっと摘んだ
(女声)
藤の花 藤の花
私たちはいつも藤の側に座る
あなたは笑みを浮かべてあの甘い恋の言葉に耳を傾ける
あなたの甘い香りは遠いところへ漂っていく