北京
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東京都日中友好協会顧問の西園寺一晃氏がこのほど、CRIに特別寄稿しました。中日関係の改善と健全な発展に期待を寄せ続ける西園寺氏は、「日中関係の真の改善は、いま正念場に立っている」と指摘し、自国民に向けて「今こそ冷静に中国との関係を考えるべき」だと訴えています。
北京では3月3日と5日に、全国政治協商会議と全国人民代表大会の年次会議がそれぞれ開幕しました。CRI日本語放送からは王洋記者が政協会議の現場に赴き、王衆一委員(日本語月刊誌『人民中国』編集長)、高洪委員(中国社会科学院日本研究所元所長)をはじめ、各界の委員たちの目に映った中日関係をテーマに取材してきました。こうした一連の報道を受け、西園寺氏は寄稿の中で、「委員たちの中日関係改善への期待と熱意を感じた。その指摘した内容について、基本的に賛成する一方、両国関係の現状を楽観視はしていない。それは主に日本側に両国の改善を阻害する要因があり、そのほとんどは改善されていないからだ」との見方を示しています。
また、両国の国民感情にずれが見られる背景について西園寺氏は、「『中国脅威論』と『中国崩壊論』という矛盾した論調が日本の中国関連報道の主流をなしているが、こうした報道は中国経済の実情とはそぐわない」とした上で、日本のメディアには客観的報道が、中国のメディアには実情の発信能力が求められるとして、両国メディアの抱える課題を指摘しています。
安倍政権の対中外交については、「外交・安保面では中国に対抗し、経済面では利益を得たい」という二面性がみられると指摘し、「今の姿勢のままで、両国関係の改善はできるであろうか」と疑問を呈しました。
このほか、現在中国で開催中の全人代、政協会議については、「『聖域なき』反腐敗闘争を行うには、強力なリーダーシップなくして不可能だ」とした上で、「日本人が今こそ冷静に考えるべき事柄」として、「①中国の経済発展は日本にとって良い事か悪い事か ②日本にとって、中国の何が脅威なのか ③中国の政治的安定と体制強化は日本にとって有利か不利か ④一帯一路と日本の国益はどうかかわるか」という4点を提起しました。
西園寺氏は結びに「日中関係の真の改善は、広範な国民の要望と政府・指導者の決意と決断が無ければできない。その正念場に日中関係は立っている」と述べています。
(王小燕)
■王洋記者の報道から
1)「中国の今を世界に発信したい」=王衆一委員
2)中日関係改善には多方面で環境整備の必要=高洪委員
■【特別寄稿】
正念場の中日関係、真の改善には決意と決断が必要
東京都日中友好協会顧問 西園寺一晃
CRI Onlineに掲載された政治協商会議委員王衆一、高洪両先生のインタビュー記事を読みました。両先生の中日関係改善への期待と熱意を感じました。私は基本的に両先生の意見に賛成ですが、そう楽観視はしていません。それは主に日本側に両国の改善を阻害する要因があり、そのほとんどは改善されていないからです。以下は私の私見の一部です。
■ 国民感情に見られるずれ
日中関係の現状をひと言で表すなら「光明は見えるも、道なお遠し」だと思う。私は熱烈に日中関係の改善を望む1人だが、願望は往々にして現状と大きな乖離があるものだ。
両国の改善は多方面から行わないといけない。政治関係(政府関係)、指導者間の信頼関係、安全保障関係(軍事含む)、経済関係、民間の人事交流(観光含む)、文化交流などであり、多方面の交流と信頼の醸成を通じてこそ、真の関係改善がある。これらの分野の中では、基礎は国民間の交流と友好関係の樹立だが、先頭に立って、積極的に関係改善の条件づくりを行わなければならないのは政府・指導者である。
数年来、中国では観光を含め日本への関心が高まり、日本を客観的に見る風潮(良いものは良い、悪いものは悪いという考え)が生まれ、対日感情はやや好転した。これは大変良い事である。一方の日本では、残念ながら国民の中の「嫌中」気運は払しょくされていない。これには大きく分けて4つの原因がある。
① 国において、発展途上でさまざまなマイナス現象が生まれた事。大気汚染などの環境問題、食品安全上の問題、道徳マナー問題、不正腐敗の蔓延などである。
② メディアの偏った報道などによる一面的見方、偏見と誤解が多々生じた事。
③ 政府及び政府に近いメディア、言論人が発信する「中国脅威論」。
④ 領土問題の先鋭化。
■実情が反映されぬ対中報道=日本/求められる情報発信力=中国
ここ7、8年来、日本では不思議な現象が起きた。一方で、中国の発展を「圧力」と感じ、中国の強大化は日本にとって脅威だとする「中国脅威論」である。これは中国がますます発展し、強国になるという前提に立っての考え方だ。その一方で「中国崩壊論」が横行した。多くのメディア、言論人が一斉に「中国経済は破綻する」、「『一党独裁』体制は崩壊する」とキャンペーンを張った。これは、所詮中国は強国などにはなれないという前提である。この「中国脅威論」と「中国崩壊論」は相矛盾するものだが、それが対中報道の主流になっていたという面は否定できない。
しかし、実情はどうか。
中国の政治は安定し、反腐敗により中国共産党の求心力は回復したばかりでなく、強固になった。中国経済は破綻するどころか、安定的持続発展の軌道に乗り、着実に伸びている。例えばここ2年の成長率は6.7%、6.9%で、今年の目標値は6.5%前後だ。この数字は「高速」でも「低速」でもなく、「中速」と言えるが、世界的に見れば高速の部類に入る。EU、米国、日本、ロシア、ブラジルなどの先進国、新興工業国の経済が低迷し、世界経済がまだ正常の軌道に乗れないままである中において、中国経済は相対的に「優等生」と言える。
この現実の中で、今起きているのは「『中国崩壊論』の崩壊」である。多くの人々は、「中国崩壊論」に懐疑的になり、実情はどうなのか、本当のところはどうなのか知りたいと思うようになった。しかし、まだ多くの人は中国の本当の姿を知るところまではいっていない。日本のメディアは大いに反省し、客観報道をすべきであるし、中国のメディアは、いかにして中国の実情を世界に発信するか、その能力が問われる。また発信しても、効果を挙げなければ意味がない。
■「一帯一路」参加問題に映し出された安倍対中外交の二面性
さて、日本政治の中心には、対中関係に関し2つの勢力、2つの考え方が存在する。「安保重視派」と「経済重視派」である。この2派は権力闘争をしながら共存している。
「安保重視派」は日中経済関係を否定するわけではないが、基本的に「中国脅威論」に立脚し、依然として「価値観外交」にしがみつき、「中国包囲網」作りに躍起となっている。一方「経済重視派」は、「中国の脅威」を一切否定しているわけではないが、日本経済の復活と再生には、対中経済協力が不可欠と主張し、関係の緩和、改善を主張する。
安倍首相はこの2派の上に立脚している。ここ数年来、「安保重視派」が優勢であったが、ここにきて「経済重視派」が巻き返し、優勢となった。原因はトランプ大統領の発言である。TPPの政治的・安保的側面は、中国牽制・封じ込めにある。ところがトランプ大統領はTPPを離脱した。また「AIIB」、「一帯一路」について、世界の主要国では、日米だけが「反対」もしくは「対抗」の立場をとっていたが、昨年突然トランプ大統領は「一帯一路」について、肯定的な発言を行った。慌てた安倍首相は急遽二階自民党幹事長を北京に派遣、習近平主席宛の親書を託し、「関係改善」の意思を伝えた。つまり、安倍首相は、トランプ大統領が日本の頭越しに中国と手を握るのを恐れ、保険を掛けたわけである。これを機に「経済重視派」が優勢になった。
安倍首相の対中外交には二面性がある。彼は対中経済交流の重要性を十分認識しているが、基本的には「安保重視派」の立場に立ち、価値観外交を推進している。日米同盟強化を基礎として、オーストラリア、インドなどを抱き込み、中国に対抗するという考えは変わっていない。安倍首相はここ数年プーチン大統領との「個人的関係」強化を図り、あわよくば中国包囲網にロシアを取り込むことを画策した。特に最近は中印の矛盾を意識し、インドの台頭を見込んで、「インド・太平洋」戦略を編み出し、トランプ大統領の賛同を得た。最近、日本では「北朝鮮の脅威」に隠れて、「中国脅威論」は影を潜めているが、日本社会において、特に政界において、それはまだ根強く残っている。その他、日本の最近の軍事的配置を見ても、「離島上陸・奪還」演習の強化、ミサイルを含む戦力の東シナ海(東海)島嶼への配備、空母建造計画など、明らかに中国を意識したものである。一方、安倍首相はこれまで「中国経済崩壊論」に与(くみ)した事はない。
日本の主要企業の多くは、直接・間接的に何らかの形で中国経済との交流、貿易に関わっている。日本の貿易相手国として、中国はダントツの第1位である。中国経済との交流無くして、日本経済は成り立たない。また安倍首相の「アベノミクス」の重要内容である「成長戦略」も、中国経済抜きには達成不可能である。そのことは安倍首相も十分承知なのである。安倍首相の目下のジレンマは、「一帯一路」への参加問題である。この問題は単なる経済問題ではなく、安全保障、環境保護連携、文化交流など多岐に渡る。参加しなければ、この大事業から恩恵を受けることは難しい。全面的に参加するなら「価値観外交」は意味がなくなり、放棄せざるを得ない。もちろん参加も自由、不参加も自由だが、日本の国益にとってどの道が有利なのか、指導者たる者は考えなければならない。
さて、このような安倍首相の、外交・安保面では中国に対抗し、経済面では利益を得るというやり方は通用するであろうか。この姿勢のまま両国の改善はできるであろうか。
■日本は今こそ冷静に中国を考えるべき
中国の党大会、全人代、政協で何が討議され、何が決議されるのかは中国の内政問題である。しかし、中国のような大きな影響力を持つ大国が、どのような方向に進むのか、国際社会が大きな関心を寄せるのは当然のことである。
日本のメディアの多くは、習近平体制が強化されたことについて、あたかも「独裁体制」が確立され、「個人崇拝」が行われるような報道をしている。世界の枠組みが大きく転換する時代、中国も更なる発展を求め各分野の転換が求められている情勢の中で、強いリーダーシップが求められるのはごく自然である。習近平指導部は固い決意を持って「聖域なき反腐敗」に取り組んでいる。
中国は改革開放以来、確かに驚異的発展を遂げ、国民生活は飛躍的に向上した。この事は誰も否定することができない。しかし、その一方で幾つかの深刻な副作用が現れた。特に上から下までの腐敗蔓延は、党の指導を根底から破壊する重大問題であった。これを放置すれば、党は人民から見放され、求心力を失い、崩壊する。そしてこれまでの成果は水泡に帰す。そればかりではない。第2の経済大国が崩壊すれば、国際社会に与える悪影響は計り知れない。中国経済と深く結びついている日本の経済は崩壊するだろう。その意味で、習近平指導部は中国を救い、世界の大混乱を未然に防いだと言える。各分野に強大な抵抗勢力が存在する「聖域なき」反腐敗闘争を行うことは、強力なリーダーシップ無くしては不可能だ。
日本人には、以上の事を頭に置いて、今こそ冷静に考えるべきことが幾つかある。
① 中国の経済発展は日本にとって良い事なのか、悪い事なのか。
② 日本にとって、中国の何が脅威なのか。
③ 中国の政治的安定、体制強化は日本にとって有利か、不利か。
④ 国際社会において大きな焦点となっている「一帯一路」の何が国益に合致するのか。
特に④については「一帯一路」の内容と意義を知った上で、真剣に考えるべきだ。
日中関係の真の改善は、広範な国民の要望と政府・指導者の決意と決断が無ければできない。その正念場に日中関係は立っている。
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