北京
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聞き手:王小燕
今回のゲストは、この7月に北京電影学院の修士課程を卒業し、今は北京を拠点に中日二カ国語で役者、タレント、コーディネーターなど幅広く才能を伸ばしている小林千恵さんです。
小林さんは奈良生まれの関西っ子。子どもの時からアニメが好きで、NHKアニメ『ふしぎの海のナディア』に魅せられ、声優になることが夢でした。その夢の実現に向け、大学卒業後は就職をあきらめ、大阪の声優養成所に通いました。良い声優になるには演技も必要だということに気づき、本格的に演技の勉強をするため上京しました。
東京ではアルバイトをしながら、劇団での稽古を続けました。食事代を節約するため、「いつも蒸かした芋を鞄に入れていた」という極貧生活。しかし、「すべてが自分の夢のためと思うと苦ではなく、楽しく頑張っていました」と本人の談。
けれども、そうした過程で、自分の成長に限界を感じます。それは、半年ぶりに出演のチャンスを得た舞台で、半年前とまったく同じ演目の同じ役を演じていた時でした。「進歩を感じずに、このままだと、来年も同じことの繰り返しになるのではないか」と不安に襲われました。
年は20代後半でした。「今しかできないことは何か」と考えた末の答えが、「中国に行って人と違う何かを手に入れたい」というものだったのです。
それまで、中国には旅行で2回ほど訪れたことがあり、親しみがありました。「これから役者として、広い中国でも活動できるようになるには、まずは標準的な中国語をマスターしなくては」と留学先を北京に決めました。
向かったのは旧市街地中央部にある南鑼鼓巷からほど近い、中央戯劇学院です。最初は演劇のための語学留学で、半年滞在し、日本に引き揚げました。しかし、「半年間の留学では足りなすぎる、本格的な留学をしたい」と思うようになりました。
その本格的な留学に向け準備をしている頃、小林さんはある日本人役者による中国公演のボランティアスタッフに応募します。その芝居とは、日本が敗戦後、中国の東北部に取り残された 日本人女性の半生を描いた語り芝居で、題は「帰ってきたおばあさん」(主演:神田幸子)でした。
奇しくも、同じ頃に北京公演の劇場ショップで入手したDVDで、この芝居に強く心を打たれた中国の映画人がいました。北京電影学院の王乃真教授です。のちに、中国公演でアテンド役をしていた共通の知り合いの紹介により、小林さんは王教授の門下生になり、北京電影学院の修士課程に入学。
このようにして出会った教師と教え子のコンビですが、これにより大きな計画が本格始動しました。ドキュメンタリー映画「戦後中国残留婦人考」(中国語題『戦後遺華日本女性考』)の撮影です。敗戦により中国に取り残された日本人女性8人を取り上げ、彼女たちの半生を追いかけ、知られざる中日間の歴史を記録して、視聴者と一緒に考える材料にしたいという制作者の強い思い入れのある作品です。王乃真監督の自主制作によるこの映画では、小林さんはコーディネーターのほか、撮影対象である8人の女性と対話する「訪問者」として自ら出演し、主題歌まで歌いました。
作品は前篇と後篇に分かれた合計3時間20分の大作です。その素材は1000時間を超え、ここまで5年もの月日がかかりましたが、この秋の完成に向け、いよいよ大詰めの段階に入りました。
小林さんは今回、この映画のポストプロダクションと主題歌収録の合間を縫って、CRIインタビューのスタジオに駆けつけてくれました。
限界を感じてから一転、新天地を切り拓くべく果敢に行動に出た小林さん。自信に満ちた笑顔の後ろには、どれだけの努力があったのか。今回のインタビューは、一人の女性の成長物語でもあります。
【プロフィール】
小林千恵さん
女優。
奈良県出身。立命館大学卒業後、幼少期からの夢であった声優を志し、大阪の声優養成所で声優としての基礎を、東京では劇団NLTで本格的に演技を学び、女優として活動。
2011年北京へ。2012年より北京電影学院演技学科で学び、2014年9月~17年7月、北京電影学院大学院修士課程。
2017年4月~NHK Eテレ『テレビで中国語』レポーターに抜擢され、得意の中国語を生かしたリポートで魅力的な北京の街を紹介。すでにナレーターとして担当するNHK BSプレミアム『桃源紀行(中国編)』と合わせてタレントとしても活動。
また、ドキュメンタリー映画『戦後中国残留婦人考』(王乃真監督・現在制作中)では、女優としてではなく、"日本人留学生・小林千恵"として出演。日本と中国二つの祖国を生きてきた中国残留婦人たちの複雑な思いに耳を傾け、その後の人生を見届ける「訪問者」の役割を担っている。この作品では制作にも携わっており、多方面で活動の幅を広げている。