日本人スタッフのつぶやき339~第十三期五カ年計画へのまなざし③

2017-09-14 09:36  CRI

日本人スタッフのつぶやき339~第十三期五カ年計画へのまなざし③

向田 和弘

 ① 政府の価格決定への関与を減少する

 市場は、これまでの計画経済と違い、本当の意味での市場経済を求めているのか。この点は、非常に矛盾した欲望が渦巻く、もっとも触りにくい領域であると感じる。 

 ここで期待したいのは、全面的な価格の市場化と、「それを妨げる要因」の撤廃である。たとえば、この10年上がりっぱなしになっている住宅価格も、大都市の学区制をなくせばある程度の変化が望めるであろうし、価格を支える政策や関係者の利益供与も取り締まっていくべきであろう。この数年の物価上昇は、基本的に不動産政策が引き起こしたものであることを認識し、そこに関係する様々な要素を検討、土地利用権収入だけに頼らぬ評価方法、不動産市場の完全自由化、学区制の取り消しなど、できる限りの力を使い、不動産市場を切り崩さなければ、別の価格決定に関わらずとも、物価上昇は収まるであろうし、関与すべき部分も減っていくはずである。他でも述べた外資系企業の給与ベースアップの要求なども、この「関与」の一部であるから、そのすべてにおいて、「見えない手」への引継ぎを行っていくべきであろう。

 政府が価格を決めなければ成らないものは、国家の管理する外交・国防・医療・教育などの分野だけでよく、他の市場の形成については、業界に任せていけばいいのである。その意味で、政府は本来のマクロコントロールの位置に戻るべきであり、ミクロまでコントロールすべきではないのである(当然のことながら、コントロールの必要な領域――規制の穴をかいくぐる者がいることは承知している)。

 もう一つの大きな内容として、中国の世界経済ガバナンスにおける発言権を強めるという項目があるが、これもこうした計画経済的思考をなくさない限り、世界各国は承服しないはずである。もし根本から変えようとするのであれば、計画生育・計画経済など、すべてにおける計画思考を転換すること、一人一人の国民が「強烈な権益意識を持った個体」であることを認識しつつ、かつ「見た目の良い・結果から考えた政策」を制定していくことが(その過程が極めて複雑になるとは思われるものの)、結果として中国を世界へ導くことになるはずである。

 ② 国有資産管理制度の完備と金融監督スキームの改革

 政府は小さくあるべきである。方針にも見られるように、より多くの部分を市場にゆだねることで、競争を導き、社会を活発にするのと同時に、私情を挟まぬ管理監督制度を構築していかなければならない。これには国有資産の民有化などに際して一部のものが私服を肥やすことのないようにする制度が必要になるし、様々な面で公平かつ公正な制度環境を実現していかなければならないだろうし、その実行力が問われる部分である。国民は、公平な管理環境を望んでいる。事務取扱者や決定権を持つものだけに権力が集中するようなことのないような内部監査が必要である。

 金融に関しても、今までの制度や枠組みの中では、あまりにも不正がはびこりすぎ、一部の内情を知るものが暴利を得る場面があまりにも多すぎたのではないか。金融領域においても、必要なのはやはり公平かつ公正な取引環境であり、「絶対誰かがずるをしている」ということが共通認識であってはならないであろう。

 同時に、様々な金融商品市場においては、法の網目を細かくし、P2Pであれ保険であれ、またはメガバンクであれ、どれもがコンプライアンスを遵守しなければ経営ができないような監視網を築いていくことが必要である。中国の一番の問題はリソースの浪費であり、その中枢である金融業界は、より一層厳格なルールのもとで管理されなければならないものであるから、今回提起された金融監督のフレームワークの見直しは非常に歓迎されるべきものであると思う。

 ③ 国有資本を取り崩し、社会保障基金を充実する

 ④ ヘルスケア及び食品安全制度の向上

 上記二項は、一つの問題として考えてよいと思われる。また、①でもその一部に関して述べた。

 現在の医療の問題は、よく「看病貴、看病難(高費用・受診難)」としてまとめられる。しかし、そこで衛生と計画生育委員会が講じてきた手段は、それまで進めてきた「以薬養医(薬品差額で医療費を補填する)」政策を改め、薬品の差額取り消しや医療サービス費を試験的に設けるのみで、抜本的改革がなされず、医師のレベルも待遇も改善されず、患者の受診不満も倍増するばかりだった。そして起こったのが医師への暴力事件であり、ダフ屋の横行、そして一部の「効益医生(儲け優先医師)」による過剰な医療と、薬価に敏感な患者のコスト回収意識からくる過剰医療だったのである。もちろん、これは過去の公費医療制度が招いた歪みという見方もできる。「不拿白不拿(貰わなきゃ損)」という考え方が蔓延った結果破綻した公費医療は、市民にその貰う思考方式だけを残し、保険制度ができてからも、「薬が出ないのは医者の怠慢」という価値観を植え付けてしまったのではないかと感じる。また、貴・難としながらも、貴の定義がない。いくらなら「貴」ではないのか、まずそこを考えるところからはじめるべきだが、政策は目に見える薬価を弄ったり、医師の帰属に関する制度を緩めたりと、利用者には関係のないところで議論が進んでおり、利用者には何の恩恵ももたらされぬピントの外れた結果を招いているような感触がある。

 この解決には、重大疾患に対するケアも必要であるが、「分級医療」と言われる医療機関のクラス分けの徹底と、プロフィットセンターである医師の質の全面的向上と均質化が求められるほか、利用者目線での価格改革、それに伴う医療費構造の改革を同時に進める必要があるのではないだろうか。また、上掲のビッグデータも共有し、疾病データを全国で共有、生産力としての国民の健康データを把握し、医療費の浪費を防止する動きを進めていかなければならないであろう。国民が生き生きと働き、生活することは、美しく力強い中国の実現には欠かせないもののはずである。他にも、中国の社会保険制度を利用するものとしては、外来や入院における保険使用上限の撤廃を望みたいし、また、日本人としては、日本の保険団体との交流を密にし、中国の状況にあった保険制度を突き詰めてほしいと考えている。日本は高齢化と医療費増大に対して、保険制度の調整を手がけ、これまでに様々な成功と失敗を繰り返している。中国には、それら現存する「教材」から多くを学び取り、将来の高齢化社会に備えてほしいと願うばかりである。

 また、食品安全制度は、環境保全以上に重要な施策である。日中間で問題になった毒餃子だけでなく、野菜や果物への発色薬物使用問題、きわめて不衛生な工房で作られる偽装食品問題など、地方局では毎日のように食品偽装の問題が報道されている姿は異常である。これには、環境対策と同時に各部署が取締りを行っていくことを期待する。

 ⑤ エコ型社会の建設

 そして、最終的に、全国民が健康でいられる環境を作っていくことが、資源を節約し、資金を節約し、気持ちよく暮らせる理想的国家を造っていくことになるわけで、上記のすべてが実現した時、特に標榜せずとも本当のエコ社会が実現することになろう。

 ⑥ 党幹部の党籍剥奪

 ⑦ 中央委員の繰上げ補選

 そして、生活環境の改善には政治面での改善も欠かせない。国民の生活環境を整えていくのとシンクロする形で、政権与党である共産党自身も、クリーンな姿でリーダーシップを発揮し、「人民に奉仕する」という本来の役目を果たしていくべきなのである。上記のすべてが実現し、党のイメージが一新されれば、100年、そして2つ目の100年も、中国は世界の中でリーダーシップを発揮し続けるはずである。

 どの国の国民にとっても、国をリードする政党の意識を変えていくことは、必要不可欠なことである。その意味で、近年行われてきた一連の反腐敗活動は実りのあるものであるし、共産党のイメージを更に引き立てるものになっており、世界中からの注目を浴びている(日本でもやってほしいくらいである)。一般にマーケティングや企業論でも言われることだが、変化を拒む組織は時代において行かれる運命にある。今後も、共産党が指導政党として、自浄作用を更に強化し、時代にあった政党として世界に日々変わっていく中国の姿を発信していってほしいと考えている。

 2.最後に

 本文はあくまでも市民生活というミクロの角度から「十三五」を読み、考えたことを記したものであり、特に学術的なものを考えて執筆したものではない。しかし、部内から依頼を受けた時点で、何かを書くにあたっては「ここにいる者」としての立ち位置を考えなければならないと考え、これまで18年に渡って感じてきた社会の変化を踏まえて、新たな政策を読み替えてみたのが本文である。理解が適切かは評価を俟つほかないが、対外宣伝の一翼を担う部署にいるものとして、なるべく自分の言葉で中国の姿を発信し、「わかりやすい国」にしていくために、自分なりのお手伝いをして行きたいと考えている。

 もちろんのことながら、新しい政策に関しては、経験不足による読み違いなどがある可能性は否めない。忌憚ないご意見・ご批判をお寄せいただければ幸いである。

 [参考文献]

 1) 中国経済網「何止"放开二孩" 十三五还定了这些大事」

http://mp.weixin.qq.com/s?__biz=MjM5ODgwODY2MA==&mid=411702047&idx=1&sn=ae65552638537eea23c57bd36b8e8cfa&scene=1&srcid=1029E234aLVEnYw1DkvVApq4#wechat_redirect

 2) 大前研一の日本のカラクリ(136)「プレジデント2015年11月2日号」プレジデント社

 3) あしたの健保プロジェクト http://www.ashiken-p.jp/basic/01.html

 4) 台湾「全民健康保険」の制度紹介 http://www.ipss.go.jp/syoushika/bunken/sakuin/kaigai/..%5C..%5Cdata%5Cpdf%5C14112909.pdf#search='%E5%8F%B0%E6%B9%BE%E5%81%A5%E5%BA%B7%E4%BF%9D%E9%99%BA'

 5) 窪田道夫「中国における医療費高等メカニズムの研究」博士論文要旨 http://repository.tufs.ac.jp/bitstream/10108/51954/14/dt-ko-0101012.pdf (論文本文の引用は複雑な為、ここでは避けた)

 6) 公民申请揭开200亿超生罚款面纱 仍存三谜团 http://news.sina.com.cn/c/2013-12-09/021928919150.shtml

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10月29日放送分
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