早大国際不動産研究所所長にして、「不動産金融工学」という新しい実学の第一人者。研究室のパソコンには、日本全土の不動産価格がリアルタイムで更新されるシステムが搭載されています。
「中国にもぜひこれを開発してほしい。そうなれば、世界の不動産価格とも比較ができるようになる。」
10月末、世界をかき乱した金融危機の影響が拡大し続けている中、北京大学?早稲田大学の共同講座のため、川口教授は北京を訪れました。
2009年1月、ダボスで開かれる世界経済フォーラムに、「不動産部会」が新設され、世界各国から15人が集まります。その中のアジア代表として出席する予定です。
Q 今回の世界金融危機も1990年代初めの日本の金融不安も、不動産バブルから始まりました。
A バブルの崩壊は日本特有の現象ではないと思います。世界経済は1980年代以降、二つの注目される動きがありました。まずは、世界経済の一体化が急速に進んだこと。1990年代初めの日本のバブル崩壊は、これを背景に起きた人類社会初めての経済危機でもありました。
もう一つは、資本資産市場の規模は実態経済を遥かに上回ったこと。例えば、日本では年間500兆円規模のGDPに対し、資本市場は約2000兆円に膨らんでいます。バーチャル経済は大きく膨らんだ風船のようで、実体経済を包んでいます。サブプライムローンはまさにその大きな風船に破けた小さな穴です。急成長への追求と金融商品に対する管理が行き届いていなかったからです。
Q 目下の危機を切り抜くための効果的な方法について、どう考えていますか?
A 資金注入しかないです。いつまでに、どのぐらいの量で資金が注入されるかが、ポイントだと思います。政府の資金注入をめぐり、西側諸国では往々にして市民の反発に遭いますが、実態経済への影響を最小限に食い留めるため、これはやむをえないことだと思います。そうでもしないと、もっと深刻な被害が出るのみだからです。
過去の日本の場合は、資金注入を小出しにしかできなかったため、処理の良い時期を逃し、回復するまでに結局15年もかかりました。
Q 世界経済が回復するまでに、後どのぐらいかかると見ていますか。
A アメリカ経済は2010年から2011年が底だと思います。住宅供給の弾力性(不動産の価格変動と不動産の新規供給量の比)という指数がありますが、数値が高いほど変動が激しいことを意味します。アメリカでは、住宅供給の弾力性は3~5で、日本の場合、私の推定では0.7です。高い弾力性のため、アメリカの不動産価格は凄まじい勢いで下がっていく反面、回復も早いと思います。アメリカの住宅指数の先物を見ても、2011年が底だと出ています。
Q 11月15日に開く金融サミットは世界経済の回復にどう影響しそうですか。
A 欧州とアメリカは、規制を強化すべきか、自由な成長を重んじるべきかをめぐり、意見の食い違いが見られます。金融サミットでの議論はどちらかに傾くかによって、回復のタイミングが10年になるか、もっと早くなるかが判断できると思います。
この中でも、特に、中国政府の動向が重要だと思います。中国は行き過ぎた悪いところは直ししつつも、自由を前提にした成長を促進していくのか、ヨーロッパ同様、規制の強化をとるのかによって、世界経済の回復のスピードが変わってくると思います。
私の個人的な意見としては、今風船の穴はとりあえず、税金でふせぐということと、やはり、自由を前提にした成長というところを残さないと、回復の糸口はないと思います。
Q 中国の出方にどのような期待をしていますか。
A 内需の拡大を世界に向けて発信することです。
今回の金融危機は人々の心理的な危機でもあります。いま、世界中の人が同じ心理に襲われたという不思議なことが起きています。そこから抜け出すには、皆で明るくなると良いですが、中国の内需が拡大されれば、世界の人々に自信を与えるに違いありません。
Q 来年1月のダボス会議で、何を提案しますか。
A 少しずつ、安定的に成長することの重要性を訴えたいと思います。
日本はかつて、バブルの崩壊による被害を経験しているので、不動産の値上がりは悪者扱いされる傾向があります。しかし、不動産は国民経済に占める割合がどんどん高まり、内需の拡大のためにも避けられない課題です。そういうわけで、急上昇するのはよくないですが、低くなりすぎるのも良くありません。
一方、世界で株の取引が行われるようになってから、1900年から2000年の百年の間、平均リターン率は7%でした。私は世界各国の指導者に、「年率5%で、それを百年続けるよう、経済の舵取りを目指すよう」提言したいと思います。そうすると、国民経済も安定的に発展できると思います。(聞き手:王小燕)
|