私の専門は陸上競技と健康スポーツについての研究です。特に、これから世界一高齢者が多くなる日本にとっては、太極拳や広場の集団ダンスなどお年寄りが活発に動く中国の健康作り活動を学ぶことは非常に価値のあるものと考えています。
実は私には、運動用具の新発明という研究テーマがあり、ここ数年は早稲田大学エルダリーヘルス研究所の先生方と一緒に開発している「バランススアップ体操」について研究を続けています。これは私の発明したスポンジ製の安全な平均台「バランススティック」を使いながら人間のバランス能力を伸ばそうと考えた体操で、この「バランスアップ体操」を中国の人々にも伝え、一緒に楽しんでみたいというのも、私の北京滞在中に果たしたい一つの夢です。
そんな夢を持って4月に北京の街にやってきたのですが、来て1週間ほどで「可楽球」という今まで見たことのない不思議な健康体操に出会いました。「可楽球」はひもの付いたボールを両手で操りながら音楽にあわせてボールをタイミングよく蹴って楽しむ体操です。はじめてみた時、私は子供たちのサッカーの練習用具にいいかなと思ったのですが、近くでよく見て話を聞いてみると、参加者の皆さんは音楽に合わせてダンスを踊るような感覚でボールを蹴っています。そして、音楽が盛り上がる場面ではボールは立体的に縦横無尽に操作され、中には中国雑技団にでも入れるくらいの技を見せる人もいます。
私は早速このグループの仲間に入れてもらい、北京体育大学の中で行われている「可楽球」の練習に通うことになりました。そして、通ううちにわかってきたことは、可楽球がまだ生まれて間もない体操で、中国はもちろん北京市内でもあまり知られていないということです。可楽球の発明者の高さんは北京に住む75歳のおじいさんでとても元気で、日本からひょっこり来た私にいつも優しく接してくれます。また、可楽球の会の会長孫さんご夫妻は、私をお茶に誘ってくれたりして交流を深めています。私は現在の北京滞在の中で可楽球に集うメンバーの皆さんたちのおかげで、素顔の中国人の明るさ、優しさ、まじめさ、そして素晴らしさを体験させていただいています。私にとって「可楽球」との出会いは、日本と中国の民間の発明家同士が偶然にも出会った奇跡のようにも思え、交流させていただいている高さん、孫さんはじめ、可楽球のメンバーの方々には心から感謝したいと思っています。
そのようなわけで、今の私には自分が日本で発明した「バランスアップ体操」を中国の人々に伝えるという夢と、中国人の高さんが発明した「可楽球」を日本の人々にも紹介し、健康体操として広めてみたいという夢が重なってきています。これからオリンピックが始まり、パラリンピックが続き、その終了後中国スポーツが新たなる時代に向かってゆく中で、私の中日両国にまたがる健康スポーツ交流の夢も前に進められればと思っています。
【プロフィール】
1957年生まれ 早稲田大学教育学部卒 筑波大学体育研究科大学院修士課程修了
専門スポーツは陸上競技
早稲田大学本庄高等学院 教諭 早稲田大学スポーツ科学部講師
2008年4月ー2009年3月 早稲田大学から北京大学への交換研究員
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