2006年の夏、ドイツで行われたサッカーワールドカップの熱気は世界各地の人々を魅了しました。残念ながら、今回のワールドカップでは中国チームの姿を見ることは出来ませんでしたが、でも、ある中国企業は自らの力でWカップ市場に参入し、中国製品の新たな伝説を作りました。それは中国大連の路明グループです。
2006年サッカーワールドカップの組織委員会は大連路明グループにLED超大型スクリーンの入札要請を出しました。これは企業にとって自己PRをする絶好のチャンスです。しかし、ドイツ側の視察団が路明グループを訪れ、生産現場を視察した結果、生産環境や製品の品質保証など、いずれもドイツ側の基準に従って見直さなければならないと求められました。このような要求を満足させるには、生産ラインや工場の施設などをいろいろ改善しなければならず、少なくとも1千万元の資金投入が必要です。もとの入札予算は5、6百万元だったのに、実際には、生産現場の改造だけでも1千万元もかかることになるのです。このような情況に直面し、路明グループは再び岐路に立たされました。
そればかりではなく、路明グループの肖志国社長はさらに厳しい試練にさらされました。組織委員会が、生産現場の改造は一ヶ月以内に完了しなければならないと要求してきたのです。この要求を満たすためには、今生産している製品をすべて中止しなければならなくなり、会社にとってかなりのリスクとなります。
資金の問題がまだ解決されないところへ、もう一つの悪いニュースが伝わってきました。
関係筋によりますと、今度の入札には、アメリカや日本、ドイツの大手企業も参加するということでした。これらの企業は業界ではかなりの知名度を持っているから、路明グループはちょっと自信がなくなりました。
この時点では、巨額の資金投入はまだ始まっていなかったので、入札をやめても、たいした損失になりませんでした。一方、入札を続ければ、その後の道は厳しいものになる可能性があります。では、どうしたら良いのか、肖志国社長は悩みました。
「私は社員たちの気持ちを考えた。もし入札を撤退すれば、きっとわが社の社員の士気を損なうし、これからの製品開発や企業発展にマイナスの影響を与えるだろう」

社員の士気がなぜ路明グループにとって、それほど重要なものなのでしょうか。
実は、アメリカの9・11テロ事件は全人類にとって災いとなりましたが、路明グループには大きなビジネスチャンスをもたらしました。
1996年、ニューヨークの世界貿易センターは安全確保のため、蛍光材料で作られた案内標識を通路や階段に設置しました。この蛍光材料は普通のものではなく、光に当たると、エネルギーを備蓄し、暗くなれば、備蓄したエネルギーを発散して照明として使えます。この蛍光材料は路明グループが開発したもので、世界をリードしています。9・11事件の中で、この蛍光標識が1時間も点いていたために、1万8千人の人が生き延びることが出来たのです。
9・11の後、欧米からの注文が殺到し、路明グループも世界有名企業にランクインしました。そのため、肖社長は職員の士気や開発能力を何よりも大切にしています。こうして、いろいろと考えたあげく、肖社長は入札への道を歩み続けることにしました。
入札に参加した以上、そのルールを守らなければなりません。肖社長は帰国して検査結果を待っていました。
あっという間に2ヶ月が立ちました。しかし、入札の結果は一切ありませんでした。焦っているた肖社長は、24時間、会社のメールボックスやファックスを見張るよう営業部に指示しました。しかし、やっぱり何の返事もありませんでした。そして、サンプル検査が始まって101日目となりました。
「夜の2時、私の携帯が急に鳴った。会社で何かあったのかと思いながら、携帯を見たが、ドイツからの番号だった。電話の向こうで通訳は私にサンプルの番号を確認していた。もしかして、サンプルに何か故障があったのかと、ちょっと緊張した。サンプルの番号を教えた後になって、向こうから「おめでとう」って言われた。『わが社が落札したのか』と聞いたら、向こうは『そうですよ。貴社の製品は総合検査で第一位になった』と答えた。それを聞いて、私は興奮して寝られず、朝6時にもなっていないのに会社へ行って職員たちに知らせた」と肖社長が語りました。
入札する前、肖社長は、サッカーの試合は何人でプレーするのかさえ知りませんでしたが、落札してから、熱狂的なサッカーファンとなり、ドイツのWカップは毎日楽しんでいたということです。Wカップを見るより、会場にある自社が生産した超大型スクリーンを探していたのでしょう。
インタビューの後、肖社長は一つの心配事を教えてくれました。2008年北京オリンピックでは、一部の会場に設置する超大型スクリーンはすでに外国の企業に落札されてしまったということです。果たして路明グループのスクリーンは北京オリンピックの会場で見られるのでしょうか。是非そうであって欲しいものです。(終わり 琳)
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