「しかたがない。しかし、わたしを食わぬわけにはいかないのか?死にたくはないのでね」
「これは困った。うーん。しかし、あんたは家には年老いた母がいるようだな」
「どうしてそれを・・」
「わしには何でもわかる。それにあんたは食われるのを恐れてそれを言ったりしなかったね。うん、そこが気に入った。なんとかしよう」
「助けてくださるか。ありがたい、ではこのままかえっていいのかな?」
「いや、いや、そうはいかん」
「で、ではどうすれば?」
「そうじゃな。明日、あんたは案山子を作られよ。そしてあんたが今着ている服を案山子に着せるのじゃ。それにバケツ三杯のイノシシの血、一反の絹を用意され、ここに持ってきなさい。そうすれば、あんたは助かるかもしれませんぞ」
これを聞いた稽胡は、こっくりとうなずきそのまま小屋を出ようとすると、数十頭の虎がぞろぞろと小屋のほうにやってくるではないか。驚いた稽胡が小屋に入ってこのことを告げると、男は「ああ、あれはわしの元に挨拶に来たのじゃ」とこたえた。稽胡は慌てて「わしはどこに隠れればいいのか」と聞くと、「あんたは小屋の中にいればいい」と言って男は小屋を出て行った。そして稽胡が戸の隙間から恐る恐る覗くと、男は虎たちに何か言いつけており、しばらくして虎たちは尻尾を振ってどこかへ行ってしまった。そこで稽胡は男に声をかけ、言われたとおりするから頼むといって慌てて家に帰っていった。
さて、次の日、稽胡は男に言われたとおり、自分のまとっていた服を着せた案山子、イノシシの血と絹を持って小屋に来た。これを見た男は笑った。
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