「ははは!約束を守ってやってこられたな。よろしい。ではその案山子を小屋も前の庭に挿し、イノシシの血を横に置きなさい」
そこで稽胡がそうすると、「あんたはあの高い木に登って見物していなされ」というので、稽胡がさっそく、その木にのぼると、男は「絹で自分を木にしっかりと縛っておきなさい。さもないと木から落ちたらここに来た虎に食われるかもな」という。こうして稽胡は自分を木に縛りつけ黙って何が起きるのかを見守ることにした。すると男はなんと小屋に入っていったではないか。
こうして稽胡が木の上でまっていると、小屋の中から大きな虎が出てきた。これはあの男に違いないと稽胡はいくらか震えだした。こちら虎は、木の上に稽胡がいるのをみて大きく吼えたあと、木に登ろうとしたがうまくいかない。そこで、かの案山子に飛びつき、それをめちゃめちゃに食いちぎり、横にあったイノシシの血をがぶがぶ飲み終わると、恨めしそうに木の上の稽胡をみて、諦めたかのように小屋に戻っていった。そしてすぐに男に姿に変って小屋から出てきた。
「もう、降りてきてもいいぞ。あんたを食ったりはしないから」
これを聞いた稽胡はいくらか不安な顔をして木からゆっくり下りてきた。
「さ、これでいい。家に帰りなさい」
「これでいいのでござるか?」
「ああ。実はあんたが今日約束どおりここに来なかったらあんたの家へ行ってあんたを食おうと思ったが、あんたが約束を守ったので、あんたは食わないよ。もうかえりなさい」
これに稽胡は安心し、男に礼を言ってから家にもどって行ったわい。
そろそろ時間のようです。また、来週お会いいたしましょう。
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