当時、この世で一番よい酒を造るのは杜康、一番の酒飲みは劉伶とよく言われていたそうですが、ここでかの有名な「杜康酒を造り、劉伶酔いつぶれる」というエピソードを私なりご紹介しましょう。
ある年の春、竹林に遊び、放談痛飲で知られた劉伶が、ある酒屋の前を通り過ぎたところ、店先に掛けてあった対連が目に止まった。右側のは「猛々しい虎も、一杯で山中に酔う」とあり、左側のは「蛟(きょう)と竜も二杯で海底に眠る」と書かれ、更に横書きには、「三年酔わずんば、金要らぬ」とある。
これを見た劉伶、「はははっ!こんな辺鄙なところの酒屋がほら吹くのかい!」と自信たっぷりで暖簾をくぐった。
「おう!誰かおらんか!」
すると白髪頭の爺さんが出てきた。
「お客人、酒でございますか?」
「こんなちっぽけな店にどれだけうまい酒があるというのだ?」
「はい、一樽あるだけです」
「それぐらいの酒で店を開くとはな。私一人でその一樽飲んでも足りぬかもしれんぞ。それに店先の対連はなんだい!人を脅かそうってわけかい?ふん!」
これを聞いた店の親父は、まったく相手にせず、
「実はうちの酒は、かの名の知れた杜康酒でして、かなり飲まれるお客人でも、大きな盃一杯で十分でござりましょう。」といい、店の小者に酒を出させた。
「何だ?この爺さんは。酒が売れるほど店は喜ぶのに、この爺さんは変わってるな。うん?さては私の身なりがだらしないので、金がないと思って見くびっていやがるな。おっと。親父さんよ。私は酔いたいので、その一樽ごと持ってきてくれ。金ならあるよ」
「いえいえ。勘違いなさいますな。わしはただ、お客人が酔われてはと心配しましてね」
「大丈夫だよ!では筆と紙を持ちなさい。もし私がここで酔い死んでも、親父さんとは関わりなしとの証を残そうじゃないか」
ということになり、劉伶は、その証とやらを書き記したので、酒屋の親父は苦笑いし小者にかの酒樽をもってこさせた。そこで劉伶は、「よし!」と自信たっぷりに、大きな盃で飲み始めたわい。
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