次は杭の杭州の食べ物のお話です。
「乞食麺」
それは時の王朝の暴政の下に、民百姓の暮らしがどん底にあり、苦しみのため多くが故郷を離れてさまよい、物乞いをして日々を送っていた。
ある日、来る途中で一緒になり、それぞれ助け合ってやっとのことで蘇州の常熟というところにたどり着いた数人の乞食の一人が、疲れと空腹、それに寒さのため倒れてしまった。一緒にいた仲間がさっそく、周りに落ちていた焚き木を集めて燃やし、この倒れた乞食の体を温めた。すると、どうしたことがここに来る途中で手に入れたのか、一人の仲間が一羽の鶏をぼろ袋から大事に取り出し、この乞食の空腹を少しでも満たそうと鶏を火で焼こうとした。しかし、鍋などの道具がないので困った。
「どうしよう?火の中に投げ込めば焦げちゃうからな」
「そうだな。じゃあ、硬い木の枝を作って串刺しの丸焼きにするか」
「でも、毛を毟らんといかんし、ここのまま炙ると毛だけが焼け燃えてしまい、中身は食べられん」
「いったいどうしよう?」
とこのとき、そばでこれを聞いていた一人が言った。
「そうだ。死んだ爺さんがむかしいってたぞ。食べ物を泥に包んで火の中に入れると、うまく食べられるようになるってよ」
「ほんとか?じゃあ、そうすることにしよう」
ということになり、仲間たちはさっそく、近くの溝の水で泥をたっぷり作り、それで鶏を厚く包んでから、火の中に投げた。
そして暫くしたところで一人の仲間が言う。
「もうそろそろいいころだろう」
「いやいや、まだまだだ」
「そうだな、鶏は毛も毟らなかったからな」
「そういうこと。鶏なんか長いこと口にしなかったから、少しぐらいは待てる」
「そうだ。そうだ、少しぐらいは待てる」
「でも、こいつは腹を空かしすぎてぶっ倒れたから早く食わせないとな」
「もういいころだろう?なんかいいにおいがしてきたぜ」
「ほんとだ。なんかいいにおいだ」
と、みんなが言っているときに、かのぶっ倒れた乞食がうなり声を出したので、これは早くせねばいかんと、一人の中年の仲間が、棒切れを取ってきて火の中から泥で包んだ鶏を外へ転がりだした。
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