次は「雅謔」という本からです。
唐の末期に王琢という役人がいた。この王琢、恐妻家でよく知られている。
と、ある年。百姓一揆の首領黄巣が兵を率いて南から都の長安を攻めに来たというので、王琢は西安の南にある要衝江陵の守備に当たらされた。もちろん戦がはじまるので、兵を率いる以外は妻や家族を連れて行ってはいけないことになっている。ところが、王琢はこれをひそかに喜び、「よかった。よかった。これでしばらくはあの鬼のような妻と一緒にすまなくてもいいのだ。ああ、これで気が晴れるワイ!」と安心していた。
ところが、数日後、都にある屋敷から使いが来て、王琢の妻が昔のことを思い出して怒り出し、そのけじめをつけるため明日にでもここ江陵に着くという。
「これは大変なことになった。どうしよう」
そこへ入ってきた部下があわてていう。
「長官どの。探りによりますと、いま、南から黄巣が10万の兵を率いてあと半日後にここ江陵を攻め込むという知らせが入りましたが!」
「なに!!?あと半日」
このとき、別の部下が入ってきて報告した。
「長官どの。奥さまの一行が一時ほどでここにつくとの知らせが入りました!」
「な、なんじゃと?!!!」
「どうしたしましょうか?!」
「これこそ大変なことじゃ。どうしよう。どうしよう!南からは敵、北からは妻」
「長官どの、早く決めてくだされ。さもないと敵がまもなくきますぞ!」
そこで王琢は決意を固めたのか言い出した。
「こうとなっては致し方ない。わしにとってこの世一番恐ろしいのは妻じゃ!みなのもの!妻がここに着くまでに南に走り、敵に降伏するぞ!」
やれやれ!
そろそろ時間のようです。では来週お会いいたしましょう。
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