中国では茶木、つまりお茶の木の原産地がどこかについて、様々な説があります。中でも最も有力なのは、中国西南部の雲南省であるというものです。
雲南地方は少数民族が沢山集まっており、その数は26を数え、「民族の博物館」と言われています。この雲南省こそがお茶の原産地であるという説の根拠の一つは、雲南省には樹齢数百年を超えるというお茶の古木がいまも残っているからです。それらの古木の中にはなんと樹齢八百年を超えるというお茶の大木があります。この古木を人々は「茶樹王」と呼び、大切に守っています。
「茶樹王」が生えているのは雲南省南端の、ミャンマーとの国境に近いシーサンパンナータイ(泰)族自治州の海県ナンノー山です。シーサンパンナーは緯度が北緯22度ほどで、その景観は全く熱帯ですが、一年で一番熱い七月でも平均気温は22度と、それほど熱くはありません。なぜならシーサンパンナーは標高がかなり高いからです。この地方は一歩山の中に入ると、照葉樹林帯となります。照葉樹林帯はヒマラヤ山脈から、ブータ ン、アッサム、東南アジア北部、中国の雲南省、貴州省、長江以南、そして日本の西南部に見られます。
これらの照葉樹林帯は熱帯多雨林の北部に広がる温帯に属し、夏には雨量が多いと言われます。この一帯に生育する主な樹木は、樫、楠、椎、椿などの常緑樹で、何れも葉の表面に光沢があることから照葉樹といいます。この照葉樹林帯では農耕文化が発達し、それは照葉樹文化となずけられています。各地の照葉樹文化にはいくつか共通した特徴が見られます。蕨(わらび)、クズや野生のイモ類の灰汁を抜く方法、繭(まゆ)から絹をつくること、麹を用いて作る酒、漆の樹液を利用して漆器を作る技法がそれです。そして、もう一つの大きな共通点がお茶を楽しむ習慣です。つまり、茶の葉を加工する技術と飲用の文化です。
ナンノー山にあるお茶の大樹、茶樹王を見学するには、シーサンパンナータイ(泰)族自治州の所在地・景洪の町から車で、山道を一時間あまり行かなければなりません。車を降りてさらに二時間ほど山道を歩くと、深い谷底の、昼でも暗い鬱蒼とした場所に、樹齢800年を超えるという「茶樹王」が今もなおその名にふさわしい堂々たる風格を見せています。
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