北京放送局の敷地内に植えられているリスナーから寄贈されたソメイヨシノも、桜の名所である玉淵潭公園ソメイヨシノも散って、今年の(1)花見もこれで終わったなと思うこの時間、市中心部の東単大街新開路胡同69号の四合院の庭の一角には高さ2メートルの山桜が静かに(2)咲き誇っています。グリーンの(3)鉄製の枠で囲まれた1平方メートル足らずの花壇に植えられているこの山桜は、野生ではなく、この四合院に住んでいる60代の女性李美同さんが植えたものです。
2004年、この花壇に桜の木を植えるため、本物の桜の木を見たこともない李さんは、玉淵潭公園や中国林業大学などへ(4)苗木を求めたが、手にすることができませんでした。あきらめずに探した所、友人の知り合いに頼んでやっと南の郊外にある植物研究所で一本の山桜の苗木を手に入れたとのことです。この桜の手入れには(5)定年退職した李さんのほか、同じ四合院に住んでいる80歳の程淑芬さんも加わります。春先になると、虫が集まってくるため、防虫剤も少し使いますが、主に手で取っているそうです。また、北京は乾燥していることから、少しでも湿度を保たせるようにと、この桜の周りにバラ、クコなどの(6)鉢植えを置く対策を取っています。また、この小さな花壇が一年中花で色とりどりになるよう、夏に咲くバラ、秋に咲く菊なども植えられています。また、この苗木を手に入れる時に使った、直径80センチの桶もまだ大事に保存されています。
李さんがここに桜の木が植えようと思いついたのは、実は、一人の日本の女性を記念するためです。この日本の女性は1941年までの6年間ぐらい、この四合院に住んでいて3人の子供を育てました。その後、家族と一緒に帰国しましたが、25年後の1976年、(7)工事中のため不便になっていた大通りを徒歩で探し回って、この四合院を見つけ、そこに住んでいた李さんと知り合ったものです。その後、この女性は、息子さんを連れてくるなど、何度もここを訪れ、亡くなるまで李さんや程さんなど普通の北京市民と、家族ぐるみのお付き合いを続けました。この女性が亡くなった後の2002年10月、(8)遺言により、彼女の遺骨の一部が息子さんによってこの庭に埋葬されたのです。実はこの女性の名前は「小沢さくら」さんでした。このため、李さんは桜の木を植えることにしたのです。そして分骨してくださった息子さんが「世界の小沢」と言われている(9)指揮者の小沢征爾さんです。この桜の木が植えられているすぐ前の建物は、180年以上の歴史を持ち、当時の小沢家の寝室でした。
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