北京の現役タクシー運転手が、このたび歌手デビューを果たし、話題となっています。デビュー曲のタイトルは、その名も、『我們是的哥(俺たちタクシー運転手)』。自らの仕事の体験をもとに書かれた歌詞が、タクシー運転手たちの共感を呼び、反響を呼んでいます。
彼の名前は余波(ユー・ボ)さん。1995年から北京の街を走っている、運転歴12年のベテランドライバーです。まさに典型的な北京のタクシー運転手で、すごく庶民的で快活なおじさんでした。
実は余波さんは、歌手になるつもりはまったくありませんでした。もともと歌うことは好きでしたが、この展開には本人も少し驚いている様子でした。きっかけは、3年前、趣味が高じてCDを自主制作したことにさかのぼります。
「かねてから、タクシー運転手を題材にした歌があればおもしろいのになあ・・・というアイデアを持っていたんです。最近は、プロの歌手ではなくても、スタジオを借りて自分のCDをつくることができるでしょう?いわゆる自主制作ですね。それで私も、音楽に詳しい友人に手伝ってもらって、この『俺たちタクシー運転手』という歌を吹き込んでみました。でも、あくまでも、人生の記念になれば・・・という思いでした。CDはたったの2枚しか作りませんでしたよ。1枚は自分用に、もう1枚は母親へのプレゼント用でしたね」(余波)
余波さんの車には、音楽CDがたくさん積んであって、運転しながら音楽を聞くのが何よりも楽しみだとか。その趣味の延長で、CDを自主制作したのですが、あくまでも個人用。運転中に自分で聞いたり、タクシー運転手仲間に聞かせておもしろがったり、最初はそういう程度だったみたいです。
それがある日、余波さんはひょんなことからレコード会社と契約し、歌手デビューすることになります。
「ある日、運転中にそのCDを聞いていたら、お客さんが私の歌を気に入ってくれたんです。彼は、レコード会社に勤めている友人を紹介してくれました。歌手になるなんて夢にも思っていませんでしたが、そのお客さんがあまりにも勧めてくれるので、試しにレコード会社の人に会ってみることにしました。そしたら、とんとん拍子にデビューが決まってしまって。不思議な話ですよね」(余波)
この『俺たちタクシー運転手』という歌が魅力的だったからこそ、余波さんはデビューすることになったのでしょう。実はこの曲、まだ発売前なのですが、早くもタクシー運転手のあいだで口コミで評判となっていて、いまラジオなどにリクエストが殺到しているということです。
この曲のファンだという、北京でタクシー運転手をしている男性は、「今回、運転手仲間が歌手デビューしたことを、同業者として、非常に嬉しく、誇りに感じていますよ。今まで、われわれタクシー運転手のために歌ってくれる歌手なんていませんでしたよ。余波さんは、私たち運転手の本音を代弁して歌ってくれています。これからもいろんな曲を聞かせてくれるよう期待しています」と話していました。
なお、今後の活動について、余波さんは次のような抱負を語ってくれました。
「いま、いろいろ曲の準備をしていますが、日常生活を題材にした曲を歌っていきたいんです。私は運転手の仕事が大好きだから。『俺たちタクシー運転手』は、運転手の経験がなければできなかった曲だし、この曲のおかげでみんなに知ってもらえるようになった。だから、タクシーの仕事は続けていきますよ。そうじゃないと、意味がないじゃないですか。タクシー会社もレコード会社も、そんな私の気持ちを尊重してくれています。二足のわらじは確かに疲れますが、支持してくれる人のために頑張ります」(余波)
最近ではテレビや雑誌などメディアへの露出も増えているので、お客さんに「あなた余波さんでしょ」と声をかけられることも多いそうです。そして、領収書にサインしてあげることもよくあるのだそうです。
北京の、そして中国のタクシー運転手の星になれるのか?!余波さんの今後に期待が高まります。
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