北京
PM2.577
23/19
中国の古典『西遊記』に登場した二郎真君は、「天眼」によって幻を見抜く能力を持っていた。21世紀に中国が造り上げた天眼――世界最大の電波望遠鏡である500メートル球面電波望遠鏡「FAST」は、137億光年よりも先の宇宙を見通せる。この望遠鏡が北京時間3月31日零時から、世界の科学界に向けて正式に開放されることになった。
「中国天眼」ことFASTは、中国南西部の貴州省平塘県にある。その建設プロジェクトは1994年に発足し、2016年9月に竣工した。その後、2019年4月に国内の天文学者に向けテスト開放され、2020年1月に正式稼動した。
2020年12月、米領プエルトリコにあるアレシボ天文台の電波望遠鏡が崩壊したため、FASTは現存する人類唯一の巨大な目となった。しかも、FASTの総合機能はアレシボ望遠鏡をはるかに上回っている。
1つ目は規模だ。貴州省の山間にあるこの大鍋のような望遠鏡は、4450以上の反射ユニットから構成され、反射面積は25万平方メートル――サッカー場が約35面分に相当する。2つ目は精度、FASTの反射ユニットは高さ140メートル、幅206メートルの範囲内でリアルタイムに移動しながら、宇宙からの信号を探知する。そして3つ目に「視力」だ。FASTは137億光年より外の信号を受信できる。
正式稼動からの1年間で、すでにFASTは科学界に多くの驚きをもたらした。まずは300個以上ものパルサーの発見だが、これは同じ時期に全世界の他の望遠鏡が発見したパルサーの総数の2倍に当たる。周知のように、地球上のナビゲーションシステムは宇宙では利用できない。持続的かつ安定した信号を発信するパルサーは、宇宙探査においてナビゲーターの大役を果たすことになる。そのほか、FASTは宇宙の謎の一つである高速電波バーストを複数回発見し、うち一つが科学誌『ネイチャー』の2020年10大科学発見に選ばれた。さらに、FASTのデータに基づき発表された国際論文は40本を超えた。もちろん、人類の夢の一つとも言える地球外知的生命体探査(SETI)におけるFASTの働きも世界の脚光を浴びている。
天文学は開放的な性質を持つ学問であることから、FASTのプロジェクトは発足当初から全世界の科学界に向けた開放を計画していた。国際協力は、中国のFAST建設の目標であり、原動力でもあった。では今後、外国の科学者はどのようにFASTを利用できるのだろう。
FASTの首席科学者である国家天文台の李菂研究員は、3月27日に上海科学技術館で行われたプロモーション活動の中で次のように紹介している。まず、各国の科学者は中国科学院国家天文台に観測申請をオンラインで提出できる。提出された申請書は中国天眼科学委員会傘下の時間分配委員会に取りまとめられ、国際的にトップの科学者たちからなる専門家チームの討論・審査を経て、プロジェクトごとに選出される。申請書の提出期間は3月31日から5月15日までで、8月1日から観測時間が分配される。なお、全体の10%以上の観測時間を外国の科学者たちに充てるとしている。
天文学は、多くの科学的発見を育む最先端の学問の一つだ。例えば、FASTの建造中に開発されたワイヤー技術が香港・珠海・マカオを結ぶ港珠澳大橋に用いられたほか、多くの新材料や新技術が科学技術のイノベーションと産業のモデルチェンジを促進した。
FASTがもたらす恩恵は科学の分野にとどまらない。山奥で深遠なる宇宙を見つめる「天眼」は、地元の経済発展や社会発展、地元住民の福祉増進にも貢献しているのだ。FASTはすでに貴州省のランドマークとなり、「静寂観光」の理念が多くの科学愛好者や観光客を引き付け、平塘は「天文の町」に生まれ変わり、年間20万人以上の観光客が訪れるようになった。一方、国家天文台は貴州師範大学に「中国天眼」データセンターを設置。これに基づいて貴州省はSKAアジアデータセンターを建設し、国際天文学界におけるもう一つの科学研究プラットフォームが誕生する見込みだ。中国西部地区にスーパーコンピューティングセンターのなかった時代はまもなく終わる。
「中国天眼」こと「FAST」は、その名前どおりに追いかけ追い越すイノベーションの精神を発揮しながら、世界中の科学者と共に、より神秘でより美しい宇宙の秘密をより速いスピードで探求していく。(CRI日本語部論説員)