12月17日 火曜日

2019-12-17 23:35  CRI

聞き手:王小燕

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 今日お話を伺うのは、「和僑」ーー近年、「華僑」をもじってそう呼ばれるようになった、海外で暮らす日本人たちを研究している堀内さんです。

 堀内さんはまだ学生だった1984年に、中国を初めて訪れる機会に恵まれました。しかし、大学卒業後はアメリカ系のコンピューター企業に就職したことで、中国とは無関係な「日本より東にばかり目を向けていた」サラリーマン人生を20年以上過ごします。「コンピューター屋さん」として、アメリカ企業や日本企業でビジネスの経験を積みました。

 その中で、アメリカ人の同僚たちが会社勤めをしながら大学院に通い、修士号や博士号を取っていた様子に刺激され、45歳で思い切って会社を辞め、大学院に入学しました。

 そんなある日、新宿の紀伊国屋で真っ赤な表紙の本が目に入った堀内さん、そのタイトルにあった『和僑』という二文字にひどく驚かされました。「どんな人たちだろう」という好奇心で、この本を読み進めました。

 「シュークリームが食べたいのに、上海で探し回っても見つからない。ならば、自分で修行してこの町でシュークリーム店を開けば良い……」

 本の中で描かれた「和僑」たちの生き様にぐいぐいと惹かれていきます。時は21世紀に入って間もない頃でした。当時の日本国内では経済の低迷を背景に、非正規雇用の増加で若者たちが元気を失い始めていました。その一方で、日本を飛び出した若者たちといったら、ぎらぎらと目を輝かせて、「まだ無いのなら、作ってしまおう」という前向きな心構えで日々開拓、進取していたのです。

 折しも、大学院に進学したことで研究テーマを考える必要があった堀内さんは、こうして、中国を生きる「和僑」たちを研究することに決めたのでした。

 「この人たちの生き方をもっと深く知りたい」と、堀内さんにそう思わせたもう一つの理由は、自身の祖父にありました。堀内さんがまだ5歳だった頃に亡くなった祖父は、1883年に山梨の生まれ。小学校の時に算数が得意だったため、横浜で銀行を作る同郷人から引き抜かれて一緒に横浜へ向かいます。横浜で英語を習得したことで、15歳でアメリカ・シアトルに渡ります。その後、テキサスで石油長者を相手にした日本風調度品の店を開いたり、ロサンゼルスで花屋を経営したりした後、日本が国際連盟に脱退した1931年に帰国。そう、その生き様は100年以上前でありながら「和僑」そのものでした。

 「ゴールドラッシュが終わりましたが、イギリスをアメリカが抜いていこうとするときに祖父が移住しました。当時のアメリカは無法地帯で、有色人種への差別もあり、祖父たちは色々な苦労をし、差別も受けたと思います。そんな祖父が一体アメリカで何をやっていたのか、気になってしょうがなかったです。しかし、2008年当時の私が祖父の軌跡を調べようとアメリカに行っても、おそらくその影姿を感じるのも無理なことだと思います。その代わり、中国が日本を追い抜こうとする中国を生きる和僑たちの人生を知ることが、祖父の気持ちを知ることにつながると思いました。おそらく苦労はありましたが、仕事を起こしている喜びも感じていたと思います。起業する人たちの喜びをとらえたくて、その人たちに会ってみたいと強く思いました」

 そうした思いを胸に、堀内さんはその後、2009年から2013年まで、3年余りをかけて、香港や中国大陸を生きる和僑たち約150人を対象に、ライフストーリー調査法で綿密な調査を始め、博士論文を仕上げます。「それだけ大勢の人にインタビューして論文にまとめられた、その元気は中国が与えてくれたものだ」と目を細めて振り返ります。

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 インタビューの1回目は、堀内さんが「和僑」と接した中で見えたという、日本社会と日本人の姿にフォーカスしてお話を伺います。なお、2回目は「和僑」と触れあう中で読めてきた中国社会にフォーカスします。放送は来年1月21日(火)を予定しています。

◆インタビューからの抜粋◆

ーー堀内さんの中国に関する経歴を聞かせてください。

 1984年、大学4年生の社会学ゼミの研究活動で初めて上海・蘇州・無錫を訪れました。その時に「億万長者(万元戸」ばかりが住む江蘇省の華西村にも行きました。ですが、大学を卒業してIBMに入社後は米国の方ばかり向いていましたね。サン・マイクロシステムズ(Sun Microsystems)という、いまのインターネット技術の特許の集積がされている会社にも勤めて、毎年何回かはアメリカに行くという社会人生活をしてきました。

ーー20年以上もサラリーマンを続けた後で、大学院に入り直したのは何故ですか?

 45歳になる頃に、「90歳まで生きるとすると、ちょうど半分だ。もう一回、別の人生ができる」と考えて、会社を辞めて早稲田大学の大学院に行くことにしました。「ずっと日本の東側を見つめてきたから、これからは日本の西側を見つめたい」と考えたのです。折しも、ITバブルの象徴と言える、ベンチャー起業家の雄であった堀江さんが牢獄に入れられるという社会の流れにもなり、アメリカではエンロン事件やリーマンショックが起こって、「日本や米国は先進国なのだろうか。先進国は進化し続けると、やばい国になるのだろうか」という感覚がありました。それと同時に、活気あふれるにぎやかな隣の国に対して、どうやら私が知る1984年の中国とは違うようだと関心を持ったんです。

ーーそこで、大学院での勉強は中国と絡めて研究しようと思ったのですね。

 はい。大学院に進学するにあたって研究テーマを考えているとき、紀伊國屋の経営学・国際ビジネス書の棚で『和僑』と書かれた本を見つけたんです。『和僑15人の成功者が語る実践アジア起業術』(渡辺賢一/2007年)と、『上海ジャパニーズ日本を飛び出した和僑24人』(須藤みか/2007年)ですね。

 この人たちは何だろう。華僑には歴史的なイメージがあるが、このたくましい日本人の若者たちは何なのだろう。会って、話を聞いてみたい!という気持ちを持ったのです。普通の日本の若者なのか?それとも変わった人たちなのだろうか?

 大学院の入学手続きをしてから、まずは上海に3週間程度の語学研修に行きました。それから半年後に香港と深センの和僑会の会合に行きました。みなさん経営者なので、20代でもしっかりとした方々というのが、和僑会に対するイメージでした。現地採用で働く若い日本人たちも、「いつかはビジネス・アイデアを考えて起業するぞ!」と、先輩起業家たちの話を熱心に聞いていたのです。

「なんなんだ!日本の20代、30代はリーマンショックやら『ロストジェネレーション』やらで元気がないのに、ここの日本人は違う! きっと中国という環境が、彼らを元気にする何かを与えているんだ!」と、「研究の問い」を立てました。

ーーそこから「和僑」に対する調査を始めたのですね。

 早稲田大学と復旦大学の大学院の交換留学で、復旦大学の社会学の大学院に半年行くことができました。そして、上海和僑会という支部を立ち上げて、そのイベント会場でアンケートを配布し500人以上の和僑の人たちに会いました。深センで起業した日本人、北京で起業した日本人も含めてです。

 最終的に、博士論文の執筆までに132人の詳細なインタビューを実施できました。文化人類学の研究方法には、ライフストーリー調査法というのがあります。過去・現在・未来の夢というように、その人の人生観、家族の歴史というのもありますが、そうやって、その人の希望や夢、欲というものを個人史の中から解釈していくんです。

 (つづく)

【プロフィール】

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堀内弘司(ほりうち こうじ)さん

 1960年代、東京生まれ。IBMなど米国系のIT大手に約10年、日系のNTTとセコムに約10年の合計20数年マーケティング業務をした。米国で生まれたITソリューションを、日本市場で展開したり、ベンチャー企業の立上げに従事した。40代半ばで早稲田大学・アジア太平洋研究科に入学し、成長目覚ましい中国・アジアの新興国に越境して起業する和僑経営者に焦点をあてた研究をする。2015年に博士号を取得し、現在は早稲田大学・現代中国研究所の招聘研究員。

 2016年~2019年7月まで北京科技大学日本語講師。

主な著書に

『中国で生きる和僑たち ーーそのトランスナショナルなビジネス・生活ーー』桜美林大学アジア総合研究所(2015/11)

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