北京
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1時間目 「CRI時事解説」SCOフリー・トレード・ゾーンはビジョンとなりうるか&「美しい農村づくり」の現場では~海南省中廖村での見聞(下)
担当:王小燕、斉鵬
北京では秋の気配が少しずつ深まっています。今週の番組は、「CRI時事解説」では「SCOフリー・トレード・ゾーンはビジョンとなりうるか」と題するCRI論説委員の文章を紹介します。
「旬な話題」では、北海道石狩市にお住まいの上田知晴さんがリクエストしたトピックスです。9月23日、広州、深セン、香港を結ぶ高速鉄道が全線開通しました。この動きに対する中国国内のレスポンスをご紹介します。
★お便りの抜粋(北海道石狩市・上田知晴さんから)
先日、高速鉄道の広深港線が香港エリアでの運営が始まり、全線での運営が正式に始まったとのニュースが報じられました…(中略)高速鉄道の延伸は、経済発展の象徴になっている出来事なのだと感じます。そこでお知らせ頂きたいのですが、このニュースは中国国内ではどのくらいの関心を持って報じられ、中国の皆様はどのようにこの延伸を捉えていらっしゃるのでしょうか。
このニュースを聞いた時の私の感想ですが、私達にとって、香港は中国の一部という印象よりも中国と香港は未だ別の国といった印象が強いのも事実です(…中略…)私達が日本から見ている限りでは中国にとって香港は大きな観光地なのかと考えがちではありますが、高速鉄道で深センと香港を結ぶくらいですから、単に大きな観光地というだけではなく、大きなビジネスパートナーでもあるのでしょうか。私達が知っているようで、よく理解していないこの問題も教えてくださいませ。
後半の「スペシャル・バスケット」では、「美しい農村づくり」(美麗郷村建設)を進めている海南省中廖村での見聞の続きです。
前回の番組では、リー族風情を生かした観光開発を導入して、村おこしが行われている様子をマイクリポートしました。今回はこうした取り組みに対する村人の受け止め方、中でも、若者の働き方に起きた変化にスポットを当ててお伝えします。電気カートの運転手を兼ねるガイドの符丁練さん(24歳)にマイクを向けてみました。観光客を楽しませるための工夫と合わせてご紹介します。
中廖村からの眺め
本屋さんへの入り口
出稼ぎから村に戻って就職した符丁練さん(24歳)
リー族の歌や踊りが楽しめる庭先
ショーの様子、鼻で吹く笛の演奏も!
ガチョウも正装でショーに参加
2時間目 「二つの40周年記念」ポリオ撲滅の中日医療協力~拓殖大学・岡田実教授に聞く(下)
聞き手:王小燕
改革開放40周年と中日平和友好条約締結40周年という二つの40周年記念企画の続きです。今回は1990年代初頭、中日が連携して山東省でのポリオ(小児マヒ)撲滅に向けた取り組みをめぐり、引き続き岡田教授にお話を伺います。
「ポリオ」は「小児マヒ」の通称で知られ、ポリオウイルスによって引き起こされ、手足に急性麻痺が現れる感染症です。特に5歳以下の子どもがかかることが多く、一旦かかりますと、治療では治すことができず、予防が唯一の効果的手段とされています。
日本では、ポリオは1960年代に姿を消しましたが、世界ではその後も猛威をふるい続けていました。中国の場合、1960年代に生ポリオワクチン( OPV)の投与を始め、感染状況が大きく改善されたものの、1980年代末、農村部を中心に再び流行の拡大という状況が起こりました。これを背景に、1988年7月、中国衛生部は「1988~1995年全国ポリオ撲滅行動計画」を作成し、国際機関や日本等との連携と援助の受入れを始めました。
山東省でワクチン投与状況を調査中の中日混成チーム
(資料写真提供:岡田実)
1990年11月、日本の元国立病院機構八雲病院病院長・千葉靖男氏他がJICA(国際協力機構)の長期専門家として中国に派遣されてきました。その時から、両国の専門家・関係者からなる混成チームは、山東省の農村の深層に分け入り、ひたむきに真実を追究します。協力が奏功し、一時期蔓延していたポリオは90年代半ばには急速に収束に向かいました。
1998年1月、中国衛生部は著名な科学者5名で構成される国家ポリオ消滅実証委員会を立ち上げ、2000年7月、中国ポリオ消滅実証報告を世界保健機関(WHO)西太平洋地域事務局(WPRO)に正式に提出しました。同年10月、「西太平洋地域ポリオ根絶京都会議」が開催され、西太平洋地域におけるポリオ消滅宣言が行われました。中日混成チームは、どのようにポリオ撲滅に取り組み、なぜこの奇跡を成し遂げることができたのか。当時、日本のJICA北京事務所に勤務していた岡田氏は、このプロジェクトの一部にかかわっていました。今回の番組では、岡田氏に当時の思い出と共に、中日双方が提携してきた足跡を追ってもらいます。
【インタビュー内容の抜粋】
岡田氏は、のちに、『ぼくらの村からポリオが消えた—中国・山東省発「科学的現場主義」の国際協力』という著書をまとめるため、当時の中国衛生部防疫司の司長をインタビューしました。当時のことについて、岡田氏は次のように話しています。
「視察のあと、千葉先生らが、后海にあった旧衛生部まで報告に来られました。特に印象に残っているのは、現場の仕事を重要視され、山東省の基層レベルの衛生部門や子供の状況をしっかり把握していたことでした。千葉先生からは、現地の仕事の基本的な状況や、医療従事者の不足、機材の老朽化など、一連の問題点の報告を受けましたが、彼が特に強調していたのは、現地の庶民の生活状況でした。報告の途中で、千葉先生は声を詰まらせ、目に涙を浮かべられたのです。子供がポリオに罹った家庭の状況は、凄惨の一語に尽きます。治療のために全財産を注ぎ込んでも、ほとんど効果がない。しかも、子供には、重い障害だけでなく生活の困窮までもがのしかかってくるのです。こんな状況に、千葉先生たちは心からの同情を示されました。その様子は、心の内面から湧き出たものだと感じられました。通り一遍の視察ではなく、非常に踏み込んだ調査を実行して現実を正確につかんだうえで、心から助けたいと思ってくださった。“助けてあげる”といった上からの目線ではなく、同じ人間として。また、先生方の学術レベルの高さからは、日本政府・JICAの誠意を感じました。これによって、我々と彼らとの間に、強い信頼、尊重、友好の基礎が固まったのです」
推薦文献:
(日本語)
『ぼくらの村からポリオが消えた—中国・山東省発「科学的現場主義」の国際協力』(岡田実著、佐伯印刷出版事業部、2014)
(中国語)
《日本对华无偿援助实录》(周冬霖著、社会科学文献出版社、2005)
《中日技术合作的背后——我所了解的日本JICA人》(周冬霖著、天津教育出版社、2010)
【プロフィール】
岡田 実(おかだ みのる)さん
拓殖大学国際学部 教授
専門分野:現代中国、日中関係、対外援助、国際協力
東北大学法学部卒業後、民間企業勤務を経て、1988年に国際協力事業団(JICA)入職。JICAでは北京大学留学、中国事務所員、中国援助調整専門家、中国事務所副所長として約10年間対中政府開発援助(ODA)に従事した他、本部、外務省経済協力局、JICA研究所等で勤務。
2010年、法政大学大学院で政治学博士号を取得し、2012-13年度法政大学法学部兼任講師。2014年度より現職。現在、大学で教鞭をとるかたわら、NPO法人日中未来の会、一般社団法人国際善隣協会などで日中民間交流活動に参加している。
【主な著書】
『日中関係とODA—対中ODAをめぐる政治外交史入門—』(日本僑報社、2008年)
『「対外援助国」中国の創成と変容1949-1964』(お茶の水書房、2011年)
『ぼくらの村からポリオが消えた—中国・山東省発「科学的現場主義」の国際協力』(佐伯印刷出版事業部、2014年)