教師や広告デザイナーの経験がある孫さんは今年40歳。孫さんは2006年の11月、ほかの10人の女性とともに一冊のエッセイ集を出版しました。この11人の女性は作家ではなく、会社員や家庭の主婦、大学の教員、フリーターなど、職業は様々ですが、それぞれの個性を持ったごく普通の人たちです。あえて共通点を言うなら、彼女達は同じ回龍観文化居住区に住み、ともに文学が好きだということでしょう。ほかの10人との出会いについて、孫さんは「これはコミュニティサイトのおかげだ」と言っています。
「このサイトで最も有名なのは『野猪論壇』、つまり、入居者掲示板ですが、引っ越してきたばかりの人は皆、まず先にそっちに入ります。そこで、友達ができてから、それぞれ『スポーツレジャー』、『学習コーナー』、『親子小屋』などの掲示板に入って、同じ趣味の人同士で集まるようになります」。
ある日、このサイトの『文学サロン』の管理者からのメールが届きました。孫さんがほかの掲示板で書いたものを見て、『文学サロン』に遊びに来ないかという案内状でした。それをきっかけに、この掲示板で友達の輪がどんどん広がり、同じ住宅区に住んでいることもあって、バーチャル空間で知り合った友達が、実際の生活でも親友になったのです。このようなことは回龍観文化居住区の入居者にとってよくあることです。
回龍観文化居住区は北京で初めて建てられた「経済適用住宅」区の一つのです。「経済適用住宅」というのは、利潤の少ない、値段の安い住宅です。この住宅区は2000年から工事が始まったもので、さきほど言ったコミュニティサイトもこの年に最初に入居した人たちが立ち上げたものです。このサイトが始められた当時のことについて、サイト管理者の一人、趙さんはこのように言っています。
「その時、皆の考えは簡単でした。つまり、家を買いたいのです。しかし、事情がわからなかったので、ほかの人に聞こうと思いました。検索すると、回龍観のウェブサイトが出てきました。当時はただの入居者掲示板で、内容はほとんど家を買うことや工事の進み具合、交通の便やインテリアのことばかりでした」。
ところで、今の回龍観コミュニティサイトはより内容が充実したものになって、登録利用者はなんと20万人を超えいるそうです。回龍観文化居住区の入居者にとって、コミュニティサイトに登録することは日常生活の一部となっています。
「ものを買ったり、交換したりすることができます。パソコンのディスプレーをとり換えたので、古いディスプレーを中古品として売ろうと、掲示板で広告を出したら、本当に売れましたよ。また、インテリアの資材や子供のおもちゃなど、、、なんでもこのサイトで交換することができます」と入居者、于さん(女)が言っています。
「毎日見ています。時間があれば、丁寧に見ますが、時間がなければ、早読みで見ます。最初はインテリア関連の内容を見ていましたが、子供が生まれてから、育児関連の内容を見ます。参考になるものがいっぱいありますよ。ここの一番いいところはこのサイトです」と入居者、ある男性の話でした。
「妊娠したばかりの時、コミュニティサイトで『順風車』を探しました。ある職場が近い方が、子供が生まれるまで、無料で車に乗せて送ってくれましたよ」と入居者、曹さん(女)が話しました。
ここでいう「順風車」とは、住む場所が近く、職場も近いか、或いは途中にある二人以上の人が助け合うものです。一台の自家用車、或いは一台のタクシーで一緒に通勤して、費用は平均で計算するという経済的で、省エネを兼ねたやり方です。このようなことは回龍観文化居住区ではよくあります。ここでで茶館を経営している丁さんは、夜中にコミュニティサイトで手助けを求めるSOSの広告を見て、手伝ったこともあります。
「このサイトでは皆、助け合います。困ったことがあると、すぐ思い出すのは、このサイトで助けを求めることです。まったく知らない人でも、助けたり、助けられたりします。ある日、夜中の2時か3時ぐらいにSOSの広告を見ました。子供が病気になって、病院まで送ってもらえないかというもので、私が送ってあげました。出産が近づいた隣の奥さんも送ったことがありますよ」。
(アナ)最初に入居した人たちは、車を持っている人は多くありませんでした。また、市内からかなり離れているので、夜中にタクシーもありませんでした。そこで、このような緊急時には、車を持っている人に助けてもらうしか仕方がなかったです。サイト管理者の趙さんもこのような人助けをよくやりました。彼は「コミュニティサイトで知り合った人は信頼できる人ばかり。皆、バーチャル世界の友人であるだけではなく、実際の世界でも近くに住んでいる友人だ」と言っています。
「入居したばかりの時は、よくチャットでおしゃべりをして、仲良くなってから、食事もよく一緒にするようになりました。私は家で仕事をするほうなので、彼らが出張に出かける時は、家や車の鍵を全部私が預かっています。また、出張先でできないことは全部私が代わりにやってあげました」。
現在、都会で暮らしている人々が、これほど他人と信頼しあうのは、稀なことではないでしょうか。ここの入居者たちはどうして、こんなに信頼し合えるのか、冒頭でご紹介した孫さんは次のように話しています。
「ほかのウェブサイトで知り合った友達はこれほど深く付き合わないでしょう。ところが、コミュニティサイトでの友達は意味が違います。皆、実際の世界でも知り合いで、真心で付き合っているので、隠さず物事を言い合うからです」。
回龍観のコミュニティサイトでは、誰でもイベントや集まりを主催することができますし、誰でも人を助けたり、人に助けられたりすることができます。とにかく、ここの入居者はコミュニティサイトから切り離されると不便を感じるようです。
「回龍観は北京にある大きな四合院のようです。家を出ると、皆知り合いで、皆助け合います」と趙さんが言いました。
人口が急速に増え、新しい住宅がますます市の中心部から遠くなっている北京で、人々の暮らしには以前と比べて大きな変化が起きています。マンション住まいになってから、人々を結ぶものが変わってきています。
「当時は、皆、引っ越したばかりでした。家が市内から遠くなって、市内に住む友達はなかなか来られないし、ここに住むと、外に出るのもおっくうになります。そこで、近所で新しい友達の輪を作らなければなりませんでした。皆、家の鍵をもらって、室内インテリアをやる時から知り合って、だんだん親友になったのです」と丁さんが話しました。
この回龍観文化居住区で、住民たちは、コミュニティサイトについて、たくさん言いたいことがあるようです。このサイトは皆の心の落ち着き場所で、何かの原因でアクセスできなければ、落ち着かないという人が多くいます。これについて、ここの入居者、心理医師の劉宝峰さんはこのように分析しています。
「人間は集まり住むもので、人と付き合いたいと思っています。コミュニティサイトは入居者にネット上の社交環境を作り、人々の心の求めを満たしています」。
アメリカに次ぐ二番目のインターネット利用者を持つ中国では、このようなことはよくあります。今後、さらに増えるのではないでしょうか。(編集:東)
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