セツレンカは標高の高い雪山に自生する植物で、赤い花をつけます。キク科のセツレンカは止血などに用いる薬としても重宝がられており、病気を治し、人々に健康をもたらします。第10期全国人民代表大会第五回会議にチベット族の女性代表として出席した益西央宗さんは、まるでチベット高原で咲き誇るセツレンカです。
1946年生まれの益西央宗さんは現在、チベット自治区人民病院の小児科医師として勤務しています。益西央宗さんは32年間医師の仕事に従事してきました。大学を卒業した後、海抜5000メートル以上の那曲(ナチュク)地区で10年間仕事したときは、患者を治療するかたわら、貧困地区の医師養成にも取り組みました。
5日午前、人民大会堂で益西央宗氏さんにお話を伺いました。
ーー「私の両親は農民で、文字が読めません。兄弟も7人いるし、共産党がなければ、私は学校に行けませんでした」
チベットが解放された後、益西央宗さんは政府の支援を受け、小学校・中学校・高校と進学し、1964年に北京首都医学大学に推薦入学、チベット初の大学生のひとりとなりました。
ーー「大学の頃、私のクラスにはチベット族の学生が3人しかいませんでした。女性は私一人しかいませんでした。そのときは、北京からチベットまでの鉄道はなかったし、旅費も足りなかったので、大学生活6年間のうち、1回しか帰郷したことがありませんでした」
今年、チベット代表団は、青海チベット鉄道を利用して北京へ来たのです。「沿線の風景はなかなかすばらしいものですよ」と、益西央宗さんは興奮を隠しきれない様子で言いました。
「青海チベット鉄道が開通した後、チベットの環境保護に何か懸念されたことがありますか」という質問に対し、益西央宗さんは次のように答えました。
ーー「環境保護は世界的な問題です。チベットは地球上に残された数少ない聖地です。経済発展や観光業の発展は、確かにチベットの人々に経済的な利益をもたらしています。しかし、観光客の増加は、きっと環境面にマイナスの影響を与えるでしょう。世界中の誰にも、環境保護の義務があります。環境保護は最優先の課題だという意識を強めていけば、われわれはこの状況を解決できるでしょう」
また、中国はいま、深刻な就職問題に直面しています。これについて、チベットの状況はどうでしょうか。
ーー「現在、チベットの就職問題は特に深刻ではありません。チベットでは、大学生などの就職はすべて国が斡旋しています。しかし、社会が発展するにつれて、就職に対する考え方も変えていかなければなりません。国に頼るのではなく、人材市場に頼るべきだと思います。つまり、自ら進んで仕事を探すべきです」
今年、温家宝首相の「政府活動報告」では、「2007年は新型農村協力医療システムの確立に力を入れ、農村の医療保障制度を整備する」ことが強調されました。
チベットの医療保障の発展状況について、益西央宗さんは次のように紹介してくれました。
ーー「医療の面では、チベットはほかの地区とちょっと違います。チベットは、農牧民と都市部住民を対象に、無料医療を基本とする制度を実施しています。国は毎年すべての対象者に医療補助金を与えます。最初はひとり当たり40元からスタートし、60元、80元・・・今はひとり当たり100元です。この補助金額は、中国のほかの地区より大きいです。チベットは少数民族が集まる辺境地区で、経済社会の発展が立ち遅れています。国の支援の下で、今、ほとんどの県や郷(日本の町、村に当たる行政区画)では医療室が設けられ、医療室の拡張工事が行われている地区もあります。しかし、医療面においては、やはり政府からの援助が強化されるべきです。特に貧困地区の医師養成に力を入れるべきです。優れた医師はほとんど都市部に集中しており、農村医師の技術はあまり高くありません。この面では、政府にもっと支援してほしいものです」(文/取材/撮影:劉叡琳)
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