中国には55の少数民族が暮らしています。そのうちのひとつに、ミャオ族という少数民族がいます。ミャオ族は、貴州省など中国西南部を中心に暮らしており、刺繍や染物など、手工芸が得意なことで知られています。しかし、後継者不足のため、その刺繍文化が、いま途絶えようとしています。
ミャオの刺繍にほれ込み、それを守るために奮闘している日本人女性がいます。佐藤みずよさんです。
佐藤さんは大連へ留学したあと、北京の日系企業に勤めていましたが、2001年、職場の日本人男性と結婚。その結婚がきっかけで、ミャオの刺繍と運命的な出会いを果たします。
「もともと伝統工芸に関心のあった主人から、ミャオ刺繍の小布をプレゼントしてもらい、その素晴らしさに惹かれたんです。ただきれいなだけじゃないんですよね。ミャオはもともと文字を持たなかったので、女たちが刺繍の図案に、自分たちの歴史やルーツなど、すべてのものを残したんです。刺繍は、彼女たちのバイブル、魂そのものなんですよ。見ているだけで、それを感じることができます」(佐藤さん)
ミャオ族はもともと農耕民族だったそうで、刺繍にも、太陽・水・蝶々・花など、自然界のあらゆるものが図案化されています。その色合いやデザインは独特で、見ていて飽きません。さらに、刺繍の目が非常に細かく、ひと目が1ミリにも満たないほどです。だから、1着の衣裳を作るのに、5年も6年もかかるそうです。
ミャオ族の世界では、「刺繍が上手な女性はいいお嫁さんになる」とされ、刺繍の技を母から娘へ代々受け継いでいたそうです。しかし、いまは、時代が変わり、特に30代以下の世代では、刺繍が出来る女性はほとんどいなくなっているのが現状のようです。
佐藤さんは2001年、その状況を確かめようと、初めて貴州省のミャオ族の村を訪ねます。
「貴州省のタイジャンという街に行きました。若い子はみんな、TシャツとGパン姿。おばあちゃんくらいしか、刺繍の衣裳を着ていないんですよ。先祖代々、脈々と続いてきた文化なのに、中国が経済成長を遂げるなか、お金のために出稼ぎに行かなければならない現実があり、後継者がまったく育っていないんですよ・・・」(佐藤さん)
ミャオ族が多く暮らす貴州省は、気候が厳しく山岳地帯であることから、産業があまり発達していないそうです。そこで、「手間隙がかかるだけの刺繍などやめてしまって、出稼ぎに行ったほうがいい」「娘に刺繍を教えるくらいなら、大学に行かせてやりたい」と、人々の考え方も変わりつつあるようです。
また、各家庭に代々伝わる刺繍製品をコレクターに売ってお金に換える例も後を絶ちません。ミャオの村では、ほとんど刺繍を見かけなくなっているのが現状だそうです。
佐藤さんが、ミャオの村でいろいろ話を聞いたところ、彼らも本当は刺繍文化がこのまま途絶えることを良しと思っていないことが分かりました。しかし、「なんとかしたいけれど、仕方がない」と誰もが口をそろえるのです。
大好きなミャオの刺繍を自分なりに守る方法はないか。佐藤さんは、タイジャンの街の人たちと協力して、刺繍学校を建てることにしました。講師は近所のおばあちゃん、場所は小学校の空き部屋、運営資金も佐藤さん夫妻のポケットマネーをやりくり、という手作りの学校です。ミャオの村には、家が貧しくて学校に行けない子供も多いそうです。そうした家庭に声をかけたところ、女の子が10数人集まってくれました。学校では、彼女たちに無料で刺繍を教えているそうです。とにかく、技術を伝えていかなければ、刺繍文化は間違いなく途絶えてしまいます。この学校は「後継者育成」という意味合いが大きいのだそうです。
「ミャオの刺繍が好き、という思いにつき動かされた」という佐藤さん。これからも、さまざまな夢を持っていらっしゃいます。
「当初は資金もなく、小学校の1室を借りてやっていました。でもいまは、多くの方の支えで、着実にいい方向へ向かいつつあります。今年秋、ダムに沈んでしまう村があって、そこから古民家を移築してきました。この古民家を校舎として利用しながら、学校経営をさらに充実させていきたいです。あと、手仕事工房をつくって、地元のおばあちゃんたちに市場性のある見事な作品をつくってもらおうと思っています。貴州の手工芸のキーポイントになっていけば、と思っています。古民家は2棟移築してきたので、ひとつは刺繍学校、ひとつは手仕事工房として使いたいですね。その2つを充実させていくのが目標です」(佐藤さん)
この刺繍学校では、2年前から里親制度を導入しています。生徒ひとりにつき3人の里親が援助を行い、学校運営をサポートしてくれています。佐藤さんはこのほかにも、ミャオ刺繍を紹介する鑑賞会を行ったり、刺繍製品を展示・販売するお店を開いたり、さまざまな取り組みを行っています。
佐藤さんのHP http://www.geocities.jp/miao_masamizu/
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