イタリア・トリノ冬季オリンピック。この晴れの舞台で、連日、多くのヒーロー、ヒロイン達が生まれている。しかし、彼らほど祖国の人々を感動させ、そして夢を与えたアスリートはいないかもしれない。2月23日、フィギュアスケートペアのフリーに出場した張丹・張昊組だ。
これに先立って行われたSP(ショートプログラム)は2位で通過。彼らの演技順は大トリとなる。逆転優勝を目指し、成功すれば五輪初となる大技のスロー4回転サルコーに挑戦。しかし、アクシデントはその瞬間に起こった。張昊が放り投げるように張丹を高く跳ね上げたが、着氷に失敗。左膝を強打し、フェンスに激突した。音楽が止まり、会場はシーンと静まり返った。張昊は「頭の中が真っ白になった」と言う。しかし心配そうに覗き込む医師に向かって張丹はこう言った。「大丈夫、続けられる。続けさせて」。簡単な治療を受けて、二人は再度所定の位置に戻る。中断した場面から再開だ。そこからの彼らは、まるであんなアクシデントなどなかったかのように完璧な演技を続けた。3回転などの大技を次々に決める。最後まで諦めなかった張丹と張昊は、執念の再演技で、観客を魅了し、そして中国冬季五輪フィギュア史上最高の銀メダルを手にしたのである。
張丹・張昊は、フィギュアのために生まれたような二人だ。22歳の張こうは、背がすらっと高く、ルックスはクールな感じだが内面はエネルギッシュで熱い。そんな彼とペアを組む21歳の張丹は小柄で愛くるしい女性だ。
1998年、当時の第一人者だった申雪・趙宏博組、ホウ清・トウ健組らを育てた姚浜監督は、そんな二人をペアにした。二人は、コンビを組んで間もないにも関わらず、世界を驚かせる結果を出した。その年の年末、世界グランプリ・ファイナルに初出場した二人は、ジュニアのチャンピオンに輝いた。当時、二人はまだ13歳と14歳。
あれから、二人は、世界のトップに向けて階段を駆け上がっていった。2003年の世界選手権6位、2004年の世界選手権5位、2005年の世界選手権銅メダル。二人は、世界の注目を集め、申雪・趙宏博に続いてオリンピック金メダルの有力候補にまで登りつめたのである。
彼らの得意技は、スロー4回転サルコー。公式戦でこれを成功させたのは、世界で張丹・張昊、たった一組だけだ。
そして迎えた二人の夢の舞台、トリノで、彼らはこの"世界唯一"の技を敢えて繰り出した。彼らの挑戦は・・失敗。逆転優勝も果たすことはなかった。しかし、どうだろう。執念で再演技に挑み、見事に滑り終えた二人に、トリノの観衆たちの拍手は鳴り止むことがなかった。二人の胸のメダルは金色ではなかったが、彼らの演技は確かに見る者の心を打った。
二人の挑戦はまだまだ続く。もちろん目標は金メダルだ。ケガに負けず、困難に打ち勝った張丹・張昊組。彼らが見せた涙とそして笑顔は彼らを愛する祖国の人々全てに勇気と希望を与えた。
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