28歳の農民工(出稼ぎ労働者)・冷保さんにとって、22日は忘れられない一日となりました。自ら建設工事に参加した「鳥の巣」スタジアムで、陸上の試合を観戦したのです。故郷・青海から長距離バス・列車を乗り継いで、北京で五輪観戦を実現できたのは、見知らぬネットユーザー10人の協力があったから。冷保さんのために、ポータルウェブサイト「網易」が呼びかけました。
冷保さんは、青海省貴徳県貢巴村生まれのチベット族。6歳で両親に先立たれ、貧しい環境で育ちましたが、持ち前の明るい性格で、歌と踊りを友に生きてきました。2007年2月から7月まで、鉄筋の運搬や組立ての作業員として、「鳥の巣」の工事現場で80日間働きました。その間、CCTV・中央テレビの「当代工人(今の労働者)」という番組に出演するチャンスがあり、「自ら作業に参加した『鳥の巣』で、五輪の試合を見てみたい」と夢を語りました。
このことを知ったポータルサイト「網易」は、冷さんの夢がかなうようウェブ上で呼びかけました。その結果、2週間で10万人のアクセスを得、400人が資金提供を申し出ました。最終的に、五輪開幕前までに、全国からスポンサー10人が決まり、それぞれ長距離バス代、列車代、宿泊・食事、五輪入場券、航空券などを提供することになりました。
五輪入場券を提供した陸熙さんは、貴州生まれで、現在は北京在住のプイ族。インターネットの抽選で陸上競技の入場券2枚が当たり、「家族が事情で一緒に行けなくなったので、あまったチケットで有意義なことをしたい」と決めました。網易の呼びかけを知り、早速応募したと言います。
「冷保さんも少数民族だと聞き、たいへん嬉しかった。改革開放で経済が急速に発展したが、格差の拡大が問題になっている。その是正に向けて、一人一人の努力が求められると思う」と、陸さんは語りました。
チケットの有効時間は朝9時から午後4時半まで。朝7時半から二人は会場入りしました。「当初は昼間に試合を見て、午後は市内に戻る予定だったが、全試合が終了するまでずっと会場にいた。うれしくて、歌を歌ったり踊ったり、周りの人に『鳥の巣の工事に私も参加したんだ』と大きい声でアピールしたりして、皆でたいへん楽しい時間を過ごした」と、冷さんは興奮冷めやらぬ声で言いました。
「おかげで、五輪を近くに感じ取ることができた。しかし、『鳥の巣』の建造には、5万人以上の出稼ぎ労働者がかかわった。私だけが会場に来られて、申し訳なくも思っている」
北京五輪が閉幕する24日午前、冷さんは故郷に戻る予定。復路はネットユーザーから提供された航空券を利用する予定で、「飛行機に乗るのも初めてだ。故郷に帰った後、『北京五輪はすばらしい大会で、誇れる五輪だった』と感動を皆に伝えたい」と笑顔を綻ばせました。(取材:王小燕、写真は網易より提供)
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