そこでもう一人の若者がたいまつを持ち、「お前たち。さっきの威勢はどこに吹っ飛んだんだい?」とあざ笑い、一人で前をいく。
「おい!気をつけろ、何かあったらすぐ引き返せよ。おいら達は洞窟の前でみんなと一緒に待っているからな。縄はあのままになってるからな」
残った若者がこう声をかけると、一人になった若者が「わかったよ」と言い残して前へ進んだ。
さて、この若者、少し行くと、前は鍾乳石が邪魔になってうまく進めない。そこでなんとかいくといくらか広いところに出たが、両側の壁にいろいろと人間みたいな形をした岩が突き出ていて、それはお寺の五百羅漢が並んでいるようで、あるものは目をカッと開き、若者を睨んでいるような気がする。これに若者はぞっとしたが、それでも元気を出し、腰のひょうたんを取って、なかの酒を少しのみ、気を落ち着けた。が、岩はそれぞれ動いているようでどうしても気味が悪くなった。そこで酒をもう一口飲んで歩く足を速め先を急いだが、不意に石の部屋が見えた。そこでたいまつをかざしてみると、その家の戸の前には目が突き出て口が大きく、牙をむき出したせむし男の石像はあり、右手を伸ばして何かをつかもうとしている。これに若者はびっくりしたが、それよりも部屋の中の地べたに誰かが横たわっているようだった。
「え?こ、こ、こんなところに人が?」と足が硬くなり、その場に立ち尽くしてしまった。すると、中から若い女子の泣き声がする。
「え?この部屋に中に女子が?そ、そんな!」
すると、その女子の泣き声が少し大きくなったようなので、これは助けを求めているのではないかとこの若者、落ち着け、落ち着けと自分に言い聞かし、しばらくして足が動くようになったので、恐る恐る部屋の中に入った。みると地べたに黒い服をまとったものが横たわり、それが泣いているのであった。
「お、お、おい。いったいどうした?大丈夫か?」
|