若者がこう聞いても相手は答えない。
「いったいどうしたんだ?どうしてこんな洞窟の奥に来たと起きた。そこで若者はもう一度明かり向けた途端「うわ!」と声を出した。
それは、一方の目玉が外にぶら下がり、もう一方の目玉が突き出た化け物だった。
「うへ!!」と若者は、びっくりして外へ逃げ出したが、その化け物は気味の悪い声を出して追いかけてくる。これに若者は腰を抜かしそうになったのを必死にこらえ、これまできた道というか、穴というか、何はともあれ、仲間のいるとろへ死に物狂いで走り、這い、転がり進んだ。で、この若者は普段から体を鍛え、特に走るのが速かったので、化け物にはすぐ捕まらなかった。そして若者がへとへとになって「助けてくれ」の声も出ずに、やっとのことでこの洞窟の入り口の下の広いところの近くに来たとき、かの化け物が若者を襲い、「ギャー!」という声がして静かになった。
で、この声を聞いたほかの若者たちが、これは大変だと手にたいまつや得物を持って急いで洞窟の入り口から下に降りてきた。すると先の穴の入り口から「ひっひっひっひっひ!」という不気味な笑い声と何かをかじる音が聞こえる。これを聞いたものたちは腰を抜かした。
しばらくしてそのものをかじる音が聞こえなくなり、静かになったので、みんながたいまつを手にその音がしたところへいってみた。すると、そこには血だらけの骸骨が、ばらばらに落ちていた。
さて、そのあと、このことを耳にした地元の県令は、手下に命じてその洞窟の入り口を壊し、石や土で埋めてしまったという。
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