次のお話は「質屋殺し」です。
「質屋殺し」(神秘的刀痕)
横丁の質屋の主が殺された。主は短剣で胸を刺し通され柱の釘付けにされて死んでいた。これを妻がすぐ役所に届け出たので、役所は捕り手の岩風をよこした。
岩風が質屋にきたのは、主が死んでから半日しか経っておらず、凶器は胸に刺さっている短剣のほかに、地べたにもう一本落ちていた。それは主のものだと妻は言う。また、主が殺された部屋の櫃(ひつ)にある引き出しの表や、壁に多くの刀傷があり、櫃の前の地べたに誰かが座ったよう跡が見つかっただけで、岩風にはほかの手がかりはつかめなかった。
そこで岩風は、主を殺すことのできそうなものを先に捕らえさせた。それは四人いた。質屋の二人の店のものと主が殺された日に店に来た二人の客であった。そこで岩風はこの四人を取り調べたが、誰一人として主を殺したことを認めない。岩風は、これら四人をしばらく役所の牢に放り込んだ。もちろん、岩風は質屋の主のこともちゃんと調べている。それによると、主は人がよく、客が金持ちであろうと貧乏であろうと、同じように扱い、客を侮ったり、騙したりしたことはないので、商いでの敵がいたり、人の恨みを買うことはないはず。それに主は殺されたが、店の金は一銭も盗られていない。つまり、下手人は金を盗るために人を殺したのではないのだ。
では、下手人は何が目当てだったのか?
岩風は、これまでのことを一つ一つ細かく考え直したが、わからない。と、次の日、あることに気がついた。それは質屋の妻がいうには、蔵の鍵ははじめは見つからなかったが、後で見つかったということだ。つまり、妻は鍵がどこにおいてあるかは知っているはずなのに、その日はどうしても見つからなかっのだ。そしてあとで、鍵を一度もしまったことがないという櫃の仕引き出しで見つけたという。これは主がしまったのだろうか?
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