次のお話は、唐代の書物「広異記」から「お腹をすかした骸骨」です。
「お腹をすかした骸骨」
周済川は汝南に住んでいたが、揚州の西郊外に別荘をかまえていた。ある日の夜、この別荘で周済川と数人の友が酒を飲んでいると、庭のほうで音がする。はじめは知らん顔で飲んでいたが、その音が止まないので我慢できなくなった友の一人が明かりを持って庭に出て悲鳴を上げた。これに周済川とほかの友が庭に出てみると、なんと子供のものであるらしい小さな骸骨が、庭のあちこちを走り回っているではないか。周済川たちはしばらくは口をあけたまま、呆然とこれを見ていた。そのうち、友の一人が思い切って大喝すると、その骸骨はなんと石の階段に上がり、友がもう一声怒鳴ると、部屋に飛び込んだ。これは大変と周済川と友たちが部屋に入ると、骸骨は床にあがって「お腹がすいた」と叫ぶ。
これに友が怒って床の横にあった棒で骸骨を叩くと、「お腹がすいた!お腹がすいた!」とまた叫んだ。これはいかんと、周済川は屋敷の者に刀や棒をもってこさせたところ、急に跪き、「お腹がすいた。食べたい、食べたい」という。そこで周済川が骸骨を叩こうとする屋敷のものを止め、酒の肴である鶏をとって骸骨にやったところ、骸骨はそれを受け取り、窓から庭に出てどこかへ行ったしまった。
こうして周済川たちはとんでもない一夜を過ごしたが、腹をすかした骸骨に物を食べさせたのだからもう来ないだろうと、次の夜も周済川は同じところで友と飲んでいた。
すると、しばらくして庭で昨夜と同じような音がする。
「また来たな!」と今度は周済川が明かりを手に出て行ったので、友たちもそれに続いた。みるとやはり昨夜の骸骨で、今度は庭の樹に登ろうとしている。それはこまると周済川は屋敷のものに麻袋を持ってこさせ、数人で何とかして骸骨を樹から下ろして麻袋に詰め込んで縄で口をしっかり閉めた。そして恐れている屋敷のものに激をいれ、それを近くを流れる川に捨てさせた。
さて、次の夜、これら度胸のある周済川らが、また同じ部屋で飲んでいると、かの骸骨がまた来た。今度は骸骨が庭で飛び跳ねながら「麻袋じゃだめだ」と叫んでいる。
「何だ、この骸骨は、何かがあって成仏できないみたいだな」と周済川らは、小さな箱をもってこさせ、おとなしくなった骸骨をそれに入れ、ふたをして縄でぐるぐる縛り、みんなでそれを運んでかの川にそっと流した。
それから数日が過ぎたある日の夜、周済川が一人で部屋にいると、庭で音がして「食べ物と棺桶ありがとう。これでおいらもやっと天に昇れるよ」という子供の声が聞こえた。そこで周済川が庭に出てみると、そこには誰もいなかったという。
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