「太極」という言葉の由来について、いくつかの説があります。一番有力な説は、初めてこの言葉がを載った書籍とされる紀元前の周時代の哲学の経典「周易」から来るというものです。「太極」の意味は「物の根源」で、ここから陰陽の二元が生ずるということでした。そして、今から300年余り前の明時代末期、河南省出身の陳王廷はこの理論に基づき、太極拳を創始しました。その後、太極拳の流派は続々と増え、陳派のほかに、楊、呉、武、孫という流派が現れ、それらが現在、五つの代表的な流派となりました。
ですから太極拳は、単なる拳法というだけではなく、儒学、道教、そして仏教などの哲学理論が含まれています。中国文化を代表するものと言われる由縁です。
先日、北京の日壇公園へ取材にうかがいました。そこで、陳式太極拳の指導者、北京市陳氏太極拳研究会副秘書長の謝志根さんに出会いました。謝さんは70年代から太極拳の名人馮志強氏について稽古を始め、30数年間、太極拳を研究してきたそうです。
謝さん:やり始めたときは、これがどうも柔らかいんだな。カンフーとは言えるの?と疑問を持ちました。でもやっているうちに、太極拳の奥深さが感じられるようになりました。中国の儒学、道教の哲学理論を生かしたうえで、自然科学の原理も多く含んでいます。「太極」という言葉に「無限大」と「無限小」という両極端の意味が同時に込められています。そして、格闘する時は「虚」と「実」の関係を上手く把握すれば、少しの力で力の強い相手を倒すことができます。
謝さんは今年68歳で、身長は160センチぐらい、少し小太りです。弟子たちはほとんど彼より大きい体格で、今はマンツーマンで太極拳の格闘技、「推手」を練習しています。一見、柔らかくてさり気ない動作ですが、謝さんは数秒間で弟子たちをすばやく倒してしまいます。「推手」は、太極拳の真髄とも言えるでしょう。一般的に普段私たちがイメージする太極拳は基本動作の練習ですが、推手は応用編と言うわけです。
謝さん:太極拳を練習する時、基本的に円い輪の概念を頭に入れなければなりません。すべての動作は円い輪と関係があります。太極拳は力学などの物理的概念を応用しているといえます。昔、人々は自然科学の理念を知らなかったから、色々な現象を不思議に感じて、太極拳を「太極神功」と呼びました。今、力学の原理で分析すれば、分かりやすくなります。
今年は、24式太極拳が編纂されて50周年にあたります。それを記念して、6月25日午後、北京の歴代帝王廟で、中日友好太極拳交流大会が行われました。
北京市人民対外友好協会と日本太極拳友好協会の共催によるこの交流大会には、合わせて240人の太極拳愛好者が参加し、合同練習を披露しました。また、中国の太極拳の名家による演技も行われました。
太極拳は1920年代に外国に伝わり、今は世界中に広がっています。外国の中では、日本がもっとも普及している国です。体に良く、しかも、人間関係にもプラスになる、これが太極拳の良さです。今、中国政府は太極拳の普及に大変力を入れています。鄧小平氏は1978年、日本のお客さんに会った時、「太極拳が良い。」(太極拳好)と書いて贈ったそうです。
太極拳の普及活動について、北京市武術協会の毛新建副会長に伺いました。
毛さん:1974年に、全日本太極拳協会の訪中団が初めて北京にやってきました。そして、1975年に、北京の国際クラブで各国の中国駐在大使や大使夫人を対象に太極拳クラスを設けました。それは各国における太極拳の普及に役立ったと思います。その後、天安門広場で一万人の太極拳公演をはじめ、毎年のように様々なキャンペーンを催しています。太極拳という中国の伝統文化を世界に広げて、みんなに知ってもらいたいと考えています。
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