ばあさんは、声を出すのを我慢して、しばらく黙っていたが、やがてうなずいた。金百両で汚い臼が売れるなんて夢を見ているようだった。
これを見た旅人はホクホク顔になり、「じゃあ、さっそく明日にでも人を雇ってその臼を担ぎに来るからね。金百両は間違いなくそのときにお渡しいますよ」と言い残し、戸をあけて雪の中へ消えてしまった。
こちらばあさん、思ってもみなかったことなので、しばらくぼんやりしていたが、そのうちにこう考えた。
「大変なことになったけど、あの旅人は明日来るだろうね。でも、あんな汚い臼を金百両で買うのだから、わしはあの臼をきれいに洗っておこう。でないと、気の毒だよね」
と、ばあさんは、さっそく臼の掃除をし始め、中にたまっていたゴミや灰などをきれいに取って、水で臼を洗い始めた。そしてゴミや灰などを近くの茶畑に運び、雪を掻き分けてそれらを洗った水と一緒にお茶の木の根っこに丁寧にかけた。
さて、翌日大晦日の朝、ばあさんがいつものようにお茶を沸かしていると、かの旅人は何人かの男を連れてやってきた。そしてきれいに洗った臼を見てびっくり。
「あれ?おばあさん、昨日の臼の中の灰などは?」
「え?灰など?ああ。石臼があまりにも汚いのできれい洗っておいたよ」
「なんですと?洗った?」
「どうしたんだべ?汚いものを洗うのがいけないのかえ?」
これに旅人がうなり始めたが、急に「では、臼にたまっていた灰などは?」
「ああ、灰などかい?あれは洗い水と一緒にわしのお茶の木にかけてしまったよ」
これに旅人ががっかり。
「旅のお人、いったいどうしたんだい?」
「おばあさん、大変なことしてくれたね」
「大変なこと?」
「ああ。実はあの石臼はこれまでの灰などがつまっていてこそ、宝物といえるんだよ」
「ええ?!」
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