そこで少年は慌てて大好きだった犬の亡骸の上に伏せてしばらく泣いたあと、犬を抱いて家に帰った。そして庭に穴を掘って犬を埋め、またしばらく泣いていた。
その夜、少年の夢に死んだ犬が出てきていう。
「ご主人さま、私の生きている間は、本当にかわいがってくださいまして、ありがとうございました。そしてご主人さま。これから出かける際は、十分気をつけなされませ。もし、危ないことがあったらこのわたしめが必ずお助けいたします。ご心配なく」
眼を覚ました少年、この夢を不思議がったが、これに何かあると固く信じていた。
さて、それから半月の間、少年は遠くへ出かけることはなく、ほとんど家で本を読んだり、詩を書いたりして、可愛がっていた犬を失った悲しみを忘れようとしていた。ところが、ある日、通州に住む叔母が病に倒れたという手紙をみて、赤ん坊のときに二親をなくしたあとの自分を育ててくれたこの叔母を見舞いに行くことになった。
この日、少年は通州に住む叔母の家を離れて、速く戻ろうと帰途を急いでいたところ、ある村の近くの道で、どうしたことか、かつて自分を辱め、可愛がっていた犬を剣で刺し殺した、かの三人のどら息子に出くわしてしまった。そこで少年は必死に逃げ出したが、なんと自分に気付いたどら息子たちは、瞬く間に少年に追いつき、またも裸にしようとしたので、少年は死に物狂いでもがいた。
と、そのとき、村のほうから一匹の大きな黄色い犬が吼えずに走りよってきて、なんど牙をむき出し一人のどら息子に飛び掛ると、喉を噛み切ってしまったので、そのどら息子は喉から血を噴出して死んでしまった。これを見た二人のどら息子、戦いて逃げ出そうとしたところ、大きな黄色い犬が同じ様に飛び掛り、一人の片足を噛みちぎり、もう一人の片腕を噛みとってしまったではないか。こうしてこの二人のどら息子は痛さのために、地べたでのた打ち回っていると、かの大きな黄色い犬は、びっくりして立ち上がった少年に向って鼻を鳴らしたあと、不意に村のほうに帰っていった。
|