今晩は、ご機嫌いかがでしょうか?林涛です。
この時間は、「池北偶談」という昔の本から「尼僧」、そして「太平広記」という昔の著から「森の髑髏」というお話をご紹介いたしましょう。
最初は「池北偶談」という昔の本から「尼僧」です。つまり、尼さんのことですね。
時は、清の順治年間、山東の莱陽県の役人たちが、公金である数千両もの銀貨を頑丈な箱に入れてを済南に護送することになった。
ある夜、箱を載せた荷車を押したりして小さな町につき、宿に泊まることにしたが、あいにく宿は客でいっぱい。それに数千両もの銀貨を荷物にしておるので、不便だと思った役人頭は、宿の主に、この町に自分たちが泊まれるところはないかと聞いた。これに宿の主が答える。
「そうでございますね。少し遠くはございますが、この町のはずれに尼寺がございます。あそこは広く、部屋も沢山ありますので、お役人さま方はあの尼寺にいかれては?」
「そうか。尼寺ね」と役人頭は、他の役人と相談したが、仕方がないのでその尼寺に向かうことにした。すると宿の外に赤い布を頭に巻いた二人の男がいて、自分たちが尼寺に案内しようと言い出した。
役人たちは、これに顔をしかめたが、すでに外は暗くなり、その上、この町には始めてきたものだから、ことが起きるのを恐れ、その二人の男に案内を頼むことにした。
こうして町外れのその尼寺にきた。ここで二人の男は、私どもはこれでとどこかへいってしまった。
そこで役人頭が、寺の門を叩くと、中から一人のばあさんが出てきた。
役人頭がいう。
「実は拙者どもは、沢山荷物をもち、この町に寄ったものだが、宿は客がいっぱいで泊まることができず、仕方がないので、一晩だけ寺に止めてくれんか」
これにばあさんは、わたしは手伝いで寺に寝泊りしているものだから、寺の住持さんを呼んでくると行って入っていった。しばらくすると住持だという五十幾つの尼さんが出てきた。
(二)「尼僧」-2
「どなたかな?うちで一晩泊まりたいというのは」
「これは、これは住持さまか。実は・・」と役人頭は詳細を話す。するとその住持は役人たちと荷物をみたあと、どうぞお泊まりくださいと答え、西側にある殿堂に荷物を運び、その横にある部屋に泊まればいいという。そして自分は、今晩は用事で出かけるので、明日、役人たちは勝手に寺を離れればよいといってどこかに行ってしまった。
そこで役人らは、荷車を庭に入れ、銀貨が入った箱などを西の殿堂に置いた。「いいか。今夜は代わる代わる銀貨を見張るのじゃ。ゆかりならんぞ」と役人頭は横にある部屋に入って休んだ。そして役人たちは半分が夜半まで、残る半分がその後を見張るということになった。
で、役人どもは服を脱がずに剣や弓矢を手に代わる代わる見張りについた。こうして夜がふけていった。するとどうしたことが不意に空模様が変わり、強い風が吹き出した。これに役人頭は目が醒め、これはいかん、何が起きるかわからんと、寝ている役人を起こし、役人たちみんなで見張ることにした。すると、急に寺の門が外から強く開けられた。これに驚いた役人たちが刀などを抜いて構えると、外から二頭の馬が入ってきた。みると、ここまで役人たちを案内してきた頭に赤い布を巻いた男たちである。、
「何だ!おまえら!!」と役人頭が叫ぶと、二人の男は馬から飛び降り、叫んだ!
「こしゃくな役人ども!おとなしく金を渡せ!」
「なんだと!大胆不敵なやつどもめ。それ!こいつらを取り押さえろ!」
と役人頭の命で、役人たちは二人の男に立ち向かった。こちら役人頭、このたび連れてきた役人たちはすべて武芸に長けたものばかりで、こんな田舎の盗賊など相手にならんとたかを食っていたが、どうしたことが、これら選び抜かれた役人どもは、二人の男に子供を扱うようにやられてしまい、地べたに転がり、うなってしまった。
(三)「尼僧」-3
そこで西の殿堂で銀貨の箱を見張っていた二人の役人も出てきて立ち会ったがやはり同じこと。それに役人頭も、腹をいやというほど殴られ気を失ってしまったわい。
さて、風もやみ、西の空が明るくなり始めたころに役人頭は気がつき、銀貨の入った箱はみんなか空になっているのを見つけて大慌て。そこで急いでかの宿をさがしにいき、宿の主に二人の男のことを聞く。
「ええ?二人の頭に赤い布を巻いた男?知りませんねえ」
宿の主がこう答えるので役人頭は仕方なく尼寺に帰ったところ、昨夜でかけたこのお寺の住持が一人の若くてきれいな尼さんを連れて戻ってきた。そこで役人頭は、盗賊の後を追うため夜に起きたことを住持に話した。
「なんです?私のお寺でそんなことがあったのですか?それはお寺にとっても恥です。ご安心なされ。お役人さまを襲った賊どもは私たちで何とかします」
住持はこう言って一緒に戻った若いきれいな尼さんに「弟子や。おまえ、心当たりがあるかえ?」
すると若い尼さんは、少し考えてからうなずいた。
「では、ご苦労じゃな。お前いってくれ」
これに若い尼さんはうなづき、不意にものすごい速さで走り出し、どこかへいってしまった。これを見て役人頭たちは驚いたが、若い尼さん一人で大丈夫かと住持に聞く。
「まあ、まあ、お役人さま、ましばらくお待ちくだされ」と住持は答えるだけ。
(四)「尼僧」-4
こうして役人たちはいらいらしながら待っていると、不意にお寺の外で馬の蹄の音がする。これに役人どもが出て行くと、なんと若いかの尼さんが右手に何かを包んだ二つの風呂敷を持ち、馬から飛び降りた。そして風呂敷を住持にわたし、小声で住持に何か言う。これを聞いた住持は風呂敷を受け取り、「お役人さま。かの二人の賊は死にましたぞ。これが奴どもの首です」といって二つの風呂敷を地面に投げ出した。すると、風呂敷が解け、二つの血まみれの生首が転がり出た。
これには役人たちぎょっとしたが、さっそくその首がかの二人の男のものか調べたところ、間違いなかった。そこで住持がいう。
「お役人さまが盗られたお金は、ここからあまり遠くない大きな杉の木の下に埋められておりますよ」
これを聞いた役人頭たち、さっそくその杉の木がどこにあるかを聞いて住持と若い尼さんに礼をいい、急いで金を取りに行ったわい。
さて、この若い尼さん、このお寺に来てから時々使いで町に出かけるが、あまりにもきれいなので、町の男たちはうわさする。しかし武芸が出来ると聞いて怖気づいた、が、腕に覚えのあるごろつきどもが、ある夜、手ごな獲物を持って待ち伏せし、お寺に帰るこの尼さんを襲ったところ、なんと上下真っ二つに切られ、川に捨てられたので、このときから誰もこの若くてきれいな尼さんに近寄るものはなかったという。
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