今度は「太平広記」という昔の著から「森の髑髏」です。
岐山生まれの于凝は大の酒好きだった。ある日、于凝は遠い涇(けい)陽にいる友達の家にいった。その日も飲んだあと寝たが、翌朝は二日酔いでふらふらしていた。しかし、この日に立たないと三日後には家に戻れない。家では大事な用事があるので、先に行って次の町で宿を取っておけと一緒に来た下男に先に行かせ、自分は馬に揺られて友達の家を出た。
時は、夏だったが、この日は気持ちよい風が吹き、馬に乗った于凝は、いい気持ちでいた。そのうちに近くに森が見えたので、于凝は、少し道草食うかとその森に入った。もちろん森の中は外より涼しいので、馬に行く手を任せていると、急に馬が立ち止まった。そして何かに驚いたのか嘶いたり、鼻を鳴らしたりし、ある方向を見て動かなくなった。
「なんだ?どうした?」と馬を下りた于凝は、近くの木に馬をつなぎ、馬の気にしているほうへと歩き出した。もちろん、于凝は昨夜の酒がまだ残り、それにこんな昼間におかしなことは起きないだろうと思ってそうしたのである。そして于凝が木々の間をいくらか行くと、なんと墓場があり、それに墓石の前に何かが座っている。
「うん?」
于凝は気味悪かったが、それでも少し近づいてみることにした。するとその座っているものが何であるかがはっきり見えた。それは髑髏だった。これを見て于凝は、酔いがいっぺんに醒めた。この気配に気付いたのか、髑髏は顔を上げ、目玉のないその目で于凝のほうを見た。これに于凝はぎくっとしたが、髑髏は急に立ち上がり、口をあけた。すると風が吹き出し、木々が揺れ、近くの木々に止まっていたのか、多くの鳥が驚いて飛び立ち、木の葉が舞い上がる。
驚いた于凝は、硬くなり始めた足を無理やり動かし、あたふたと馬の繋いであるところにかけ戻り、馬を走らせほうほうの体で逃げていった。
さて、こちら下男、近くの町にいく途中、後ろから馬の走る音がし、乗っているのが怖い顔をした主人だったので、あわてて馬を止めわけを聞く。
「ど、どうなさいました?旦那さま!」
そこで于凝は、下男が差し出した水を飲んでからいまさっき見たこと話した。これに下男も驚いていると、そこへ、地元の見回りをしている兵士たちがやってきた。そこで于凝と下男はこのことを兵士の頭に話す。この頭、はじめのうちは于凝らのいうことは信じなかったが、于凝の震えが止まらないのを見たあと、自分たちは毎日見回りに出ても何も起こらないので、暇つぶしにそこへいってみようと言い出し、于凝の案内でその森にきた。そして于凝が来たという墓場にきてみると、確かに墓石の前に髑髏が座っていた。これに兵士たちもびっくり。
「なんだ!?化け物め!!」という頭の叫び声に髑髏は気付いたのか、急に立ち上がったので、ぎくっとなった兵士たちは武器を手に構えた。もちろん、于凝と下男は木の後ろで震えていた。
こちら、兵士たちと髑髏、双方はしばらくにらみ合っていたが、一人の兵士が震えながら近くに落ちていた石を拾って髑髏めがけて投げた。すると、石は髑髏の頭に当たって「カーン」という音がした。これに髑髏は気味の悪い骨の手で頭をさすっている。これを見て兵士たちは勇気が出てきたのか、ある者は矢を放ち、ある者は槍を投げた。しかし、今度はいずれも外れてしまう。そこで兵士たちは、髑髏にこれ以上近づくのは怖いので、手に持っているものをいっせいに投げつけた。すると、その中の幾つかが髑髏にあたった。こちら髑髏は怒ったのか、ぐわっと口をあけてすごい声を出した。これに頭と兵士たちは恐ろしさのあまり腰を抜かし、その場にしゃがみこんでしまった。すると、髑髏が上を向いたので、風が出来きて木々が揺れだし、木の葉が舞い上がり、地響きがした。これに頭と兵士たちはほうほうの体でその場を逃げ出した。もちろん、于凝と下男もそれに続く。
さて、次の日、かの兵士の頭が上官と多くの兵士を案内して、化け物退治だと森にある墓場に来たが、そこに髑髏はもういなかったわい。
そろそろ時間のようです。来週またお会いいたしましょう。
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