「汝陽王さま。どうです?拙僧は酒甕で飲みたいのですが。もちろん、それぞれ飲めるだけ飲むということに・・」
「ええ?そうでござるか!酒なら屋敷に腐るほどありますので、どうぞどうぞ。やりましょう」と汝陽王は、これには付いていけないと思いながらもこう答えた。
そこで酒甕が卓上に置かれた。こうして常持満は酒甕でがぶがぶ飲みだしたが、汝陽王のほうはやはりお椀で飲んでいる。
「この人物はいくらのめるのか?」とふらつく自分に言い聞かせながら見ていると、常持満はなんと酒を十甕ほど飲み干したので汝陽王はあいた口がふさがらない。それに自分も飲むのをやめたわけではないから、酒がかなり回り、座っているのもつらくなってきた。そのとき、常持満の顔が赤くなり始めたのに汝陽王はやっと気付いた。そこで自分の酒飲みという面子をいくらか取り戻すため、汝陽王はふらつく自分に鞭を打ち、しっかりと座りながらいう。
「常持満どの。まだいけますぞ。さあ、遠慮なく飲まれや」
これを聞いた常持満は、「いや、いや。これまでが拙僧の酒の量。これ以上飲むと酔いつぶれてまいますわい」
これに汝陽王は必死になって答える。
「いや、いやそんなことはありますまい。そこもとは酔ってはおられんではないか」
「いやいや。これ以上少しでも飲むと必ず酔っ払ってしまうのでござるよ」
「ほんとでござるか?」
「汝陽王さまもご存知だと思いますが、どんなことも度が過ぎれば楽しいことであっても悲しみと変わるもの。この世のいかなるものもこの決まりから逃れることは出来ません」
「ふん・・」これを聞いた汝陽王は、自分は倒れる寸前になっていたので、黙って椅子にもたれた。
「実は、拙僧は汝陽王さまのためにお宅を訪れたもの。今日は懸命に飲みましたぞ。これ以上飲めば倒れるのは決まっております。しかし、せっかくのことですから、拙僧も無理して最後の一甕を開けましょう。汝陽王さま、いいですかな、度が過ぎてはいけませんぞ」
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