すると、誰もいない部屋で声が聞こえた。
「遠いところをわざわざご苦労様でした。実は屋敷には私と下男たちがいます。私は話し相手がいないので寂しく思っているところでした。そこへ貴公がこられたのでうれしく思っています。まずは、お座りくだされ」
この声が終わると誰もいないのに、中の部屋から二つの椅子が浮かぶように近くに来て地面に静かに置かれた。これには張さん、ギョッとしたが、それでも自分に「落ち着け落ち着け」と言い聞かせながら椅子に座った。すると今度は、二杯のお茶が赤いお盆に載せられ浮かんできて、近くにある卓におかれた。そこで張さんは遠慮なくお茶をすすった。そのお茶はとてもうまかったので、張さん思わず「うまいお茶ですな」といってしまった。
するともう一つの茶碗が宙に浮き、いくらか傾き、自分の向かい側でも誰かがお茶を飲んでいるようだった。しかし、見えない相手は黙ったまま。仕方がないので張さんも黙ってお茶を飲み続けた。しばらくしてお茶が飲み終わると、今度は見えない数人のものが入ってきたような気配がした。そして卓上には酒と肴が並べられた。うれしくなった張さんが思い切って見えない相手に言った。
「私は先ほど申したように張虚一というもの。となりの町に住んでおりますが、貴公は?」
「私は、苗字は胡といい、四男ですので下男たちから四旦那と呼ばれています。」
「四旦那ですね」
「いかにも」
「これはこれは、胡の四旦那どの。はじめまして」
という具合に、一方の姿は見えないものの、二人は酒を酌み交わし始めた。酒は上等の酒で、肴は変わったすっぽん料理や鹿の肉料理、それにいろいろと珍しい野菜料理もあり、どれも酒に合ってうまい。こうして二人はかなり飲み、張さんがこの辺でお茶をいっぱい飲みたいなと思った途端、おいしいお茶が運ばれてくる。そのあと張さんはまた酒を飲み始め、この日の夜はかなり飲んだ。
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