さて、この日からというもの、目には見えない四旦那の下男が付いているので張さんは怖いものなし。どこかへ出かけて困ったことがあっても、怖い獣に出会っても大丈夫であった。こうして一年が過ぎた。もちろん、張さんと四旦那の付き合いは途絶えていない。
と、ある晩に張さんはいう。
「私はこの世で貴公のような友を得て毎日が楽しくなった。しかし、これまで貴公の姿を一度も見ないというのはいくらか残念でししてな」
これを聞いた四旦那は笑って答えた。
「二人の間に情けがあればそれで結構ではござらんか。姿などどうでもいいこと」
これには張さん、黙って杯を口に運ぶしかなかった。
それから一ヶ月が過ぎたある日、四旦那の下男が「旦那さまが先生をお呼びでございます」といいにきた。張さんはわざわざ人をやって呼びにくるとはいったいなんだろうといつものように四旦那の屋敷に向かった。
すると、この日は普段よりいい酒と料理が並べられている。席に座った張さんが聞く。
「わざわざのお呼び出しで、どうなされた?」
「張どの。実は私はふるさとへ帰らなければならなくなりましてな」
「え!?」
「いや、訳は聞いてくださるな。そこで貴公は私の姿を一目見たいと申されていましたな?」
「いかにも。一目見たいと申しましたけれど」
「では、今日は貴公とのお別れとしてわたしの姿をお見せしよう」
「まことでござるか?」
「いかにも。では中の部屋の戸とあけてみなされ。中に私がおります」
これを聞いて張さんは中の部屋の戸を開けた。すると中に立派ななりをした美少年が立っていた。が、それはすぐに消えた。これに驚いた張さんが振り向くと、足音だけが自分のそばで聞こえた。
「これでいいでしょう」
張さん、もう一回見たそうな顔している。
「張どの。いつかは別れるときが来るもの。仕方がない。さ、別れの酒を飲もうではないか」
こうして二人は飲み始め、その日は張さん酔っ払い、夜半になって下男に送ってもらった。
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