現代中国の急変で生まれた中国文学の代表作
中国で130万部売れた人気作家・余華の『兄弟』(上・下)の日本語版が、文芸春秋から刊行されました。
余華は、張芸謀監督の映画『生きる』(中国語原題:『活着』)の原作者。日本語に翻訳された作品は、『生きる』に続き、今回で2作目となります。
文革を経て、改革開放で市場経済を目指す40年ほどの間に、中国で起きた激変とその変化が人々の精神に与えた影響をテーマに、ユーモラスと涙を誘うタッチで描きあげています。日本語版では、上、下にそれぞれ"文革篇"と"改革開放篇"と名づけられています。
余華はあとがきで、「これは二つの時代が出会って生まれた小説である。前者は文革中の物語で、狂気じみた、本能が抑圧された痛ましい運命の時代…(中略)後者は現在の門尾が足りで、倫理が覆され、(中略)極端な欲望のままに浮ついた、生きとし生けるものたちの時代の話である」と記しています。
これまでには、ベトナム、フランス、イタリア、韓国など14ヶ国語に翻訳、出版されています。フランスでは、今年の4月に翻訳出版された後、文芸図書のランキングの中、現在も上位30位以内の好成績を保っています。
翻訳は北京在住十四年の泉京鹿さん。中国語の原文は50万字。日本語では900ページにわたる大作。二年近くかかって、仕上げました。
泉さんは、日本の現代文学が中国でたくさん翻訳、出版され、読まれているにもかかわらず、日本で翻訳出版された中国の現代文学が少ないという現状に触れ、「同じ情報量がないと相互理解できない」という思いから、現代中国文学の翻訳を決心しました。これまでには『さよなら、ビビアン』(アンニーベイビー)、『ブッダと結婚』(衛慧)などいまの中国で絶大な人気を博した作品の翻訳を多数手がけました。今回の『兄弟』は、泉さんが自らの中国滞在で体験した「驚きと涙と笑いと理不尽」のイメージとぴったり合致し、「中国同時代作家のベストセラーの、大衆文学の力」に魅せられ、「翻訳企画を出版社に持ち込んだ」初めての翻訳作品でもあります。
「オリンピック開催を控え、さまざまな意味で激動の中国の過去と現在、そして未来を考えてみるために、今この時期に読んでもらいたい作品」、と期待を語っています。(王小燕)
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