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「中国国際放送局日本語放送開局65周年」時實淑子(作文募集)(下)
   2006-12-21 15:01:52    cri

 

 Mさんは時々、現金を持って中国に行き、日本の品を中国に売り渡し、日本人の求める品をあれこれと中国から持ち帰り、小さい貿易商のような生活ができるようになりました。

 

 日中戦争が日に日に熾烈を極める中、Mさんは中国の奥地に暮らしたこともありました。農村の人々と交流を深め、戦禍を避けつつ暮らしていました。村の人々は素朴で正直で、とてもやさしく親切だったそうです。中国には「富む者ほど愚者はなく、貧しい者ほど賢者はない」ということわざがあり、そのとおりだと思うこと多々だったそうです。中国の貧しい農民は、信義を重んじ、人間の純粋な本心を失ってはいない。Mさんは、商売を通して利益を得つつ、学びつつ過ごしたあの数年間は、彼の人生の財宝だったと言います。

 

 戦争は終わり、Mさんは日本に帰国して今日にいたるのですが、中国から受けた恩恵は忘れられないと言います。一家心中でもしようかと思うほどの苦しみのどん底を救ってもらったのですから。Mさんの子供も大学を卒業して、教育者として社会に貢献しています。

 

 Mさんは、中国への恩返しは北京放送を日本に普及させることだと信じていました。奥さんとも相談して、立ち上がったのです。

 

 Mさんの家は、岡山の操山の上にあり、一般の市民を集めることは大変でした。岡山市内のどこかに適当な家はないか、と友人にも相談して、この場に事務所を持つことにしたのです。

 

 「あなたも協力してください!」と、熱意をこめて語るMさん。私もできるかぎりの努力を惜しみません、と誓いました。

 

 しかし、その願いは、なかなか思うように進展しませんでした。何しろ、いまの日本人は、北京放送のあまりにもまじめな放送より、一瞬の憩いを求めるために放送を聞きます。そのような放送を、決して毛嫌いしているわけではありませんが、食うか食われるかの経済戦線、1日の戦いを終えて帰宅して、テレビのスイッチを入れると、華やかなドラマや音楽、エロチシズムの数々・・・豪華な料理番組・・・。ほっとして、1日の疲れを癒し、深い眠りに入りたいと、誰もが思うでしょう。深く、人生とか哲学とか政治とかを考えるより、ゲラゲラと笑い、適当にお茶をにごすことが幸福だという風潮が、知らず知らずのうちにできているようです。私もそのひとりであったかもしれません。

Mさんが事務所で、来る人々に北京放送のことを必死に伝え、奮闘している姿は、悲惨でした。1ヶ月に1度は、会を催し、事務所の2階で楽しい集まりを催していました。中国で習得した水餃子をつくり、人々をもてなしたりしていました。約15人ほど集まっていました。私もお手伝いしました。餃子は、なかなかおいしかった。しかし、Mさんの努力にもかかわらず、聴く会はごく少数の人の集まりとなってしまいました。さすがのMさんも、事務所の家賃・電話代・光熱費・印刷代・交通費などの捻出に苦しむようになり、人々からの寄付も少しはあったものの、ついに3年ほどで解散の運命となってしまいました。

私は、Mさんを助け、何とかしたいとあせりました。しかし、日本の現状はインフレの真っ只中。物価の上昇は一瞬の油断も許さず、うかうかしていれば食うことさえままならぬ有様。泣く泣く解散の憂き目を見てしまいました。

 

 Mさんは、倉敷の医師・I先生の経営する病院へ引き取られ、手厚い看病を受けていましたが、いまから25年前、94歳の天寿を終えました。Mさんの無我献身の功績はいたるところに、静かに、花を咲かせていますが、それを知り、讃える人はほとんどいません。

 

 日本の3大公園のひとつ、後楽園には、その外まわりの土手に見事な桜並木があります。毎年、春4月の初旬には、満開の花が咲き、花のトンネルの小道となります。脇を流れる旭川の河川敷は、市民が1年に1度の夜桜を見物するドンチャン騒ぎの舞台となり、灯りは輝き、酒は酌み交わされ、歌に踊りに、日ごろの鬱憤を晴らし、時には負傷者も出る有様です。

 

 この桜並木を作ることを提案し、実行に移したのはMさんでした。

Mさんは、北海道の松前在住の熱心な桜愛好家の青年が、松前の、紅の濃い桜の苗を日本に広めたいと念願していることが新聞に出ているのを見て、非常に感激して、この桜を岡山の後楽園に植え育てたいと思ったそうです。Mさんは、当時の後楽園園長に面会、再三熱意をもって説得して許可を得て、苗木を松前の青年に注文することに成功しました。Mさんは、一文たりとも取ることもせず、ただにこやかに、「よかった、よかった」と、子供のように喜んで、この桜の健康に育つことを念願していました。

 

 私は、桜の咲くころになると、Mさんの、痩せた清らかな姿を偲び、懐かしく思っています。

 

 若い日には苦労もありました。泣いて、泣いて、寂しさに耐えた日々もありました。

私はいつも、一身に苦労を背負って生きているという観念を持っていたように思います。でも、いまは違います。苦労して、長寿を得た私の人生。微笑みながら、日本の平和が長からんことを祈り、かつ、いろいろと教えていただいた北京放送を始め、先達の方々に教わり身につけた財宝を、多くの人に惜しまず伝えたいと念願しつつ、生きながらえています。

 

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